防災ミニ講座

防災ミニ講座(目次)

「防災ミニ講座」では様々な防災活動プログラムや教材、弊会の活動についてご紹介しています。なお、2015年以降、一部記事については関連団体である一般社団法人防災教育普及協会より寄稿されており、同会ホームページへと移転しております。ご了承ください。

一般社団法人防災教育普及協会


第35回 大学・行政・社協・NPO等4者連携による災害ボランティア育成

第34回 災害の記憶を未来へつなぐ「防災教育と災害伝承の日(3月11日)」制定の呼びかけはじまる

第33回 遠方被災地と地元被災時で異なる災害ボランティア参加の流れ[イラスト付き]

第32回 大学生対象に傾聴や他者理解をテーマとした災害ボランティア講座

第31回 大学における災害ボランティア育成の現状と展望2017~首都直下地震に備えて~

第30回 地域連携プログラム『地域における防災教育の実践』

第29回  【教材あり】公務員志望学生向け防災・災害ボランティア入門講座

第28回 気軽に楽しめる防災教育教材&ゲームの一覧

第27回 【教材あり】災害ボランティアセンターの基本と運営訓練用プログラムの紹介 

第26回 防災教育とアクティブ・ラーニング

第25回 防災教育に使える教材⑤ 災害時のトイレアクションを学ぼう

第24回 防災教育に使える教材④ 災害時のコミュニケーションを学ぼう

第23回 -特別編-地域における防災教育の実践に関する手引き(第30回に更新版)

第22回 (記事を移転しました:防災教育普及協会「教材・事例紹介」

第21回 災害救援ボランティア講座の10年と大学・学生への普及

第20回 防災教育に使える教材③ 災害状況を想像する力を伸ばすプリント

第19回 第3回国連防災世界会議と防災教育の国内外への普及

第18回 地域防災力UPシリーズ② ぼうさい探検隊で防災マップづくり

第17回 地域防災力UPシリーズ① 災害図上訓練-DIG-でまちを知ろう

第16回 EDUPEDIA「防災教育50選」をもっと活用する4つのポイント

第15回 【教材あり】災害情報とコミュニケーションについて学ぼう

第14回 防災教育のすすめ ~命を守る防災教育の考え方と実践事例-後編-~

第13回 防災教育のすすめ ~命を守る防災教育の考え方と実践事例-前編-~

第12回 (記事を修正中です)

第11回 【教材あり】災害ボランティアセンター運営を体験してみよう! 

第10回 東京臨海広域防災公園「そなエリア東京」に行ってみよう!

第09回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-後編-

第08回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-中編-

第07回 学校防災教育における指導計画・指導案づくり -前編-

第06回 いま求められる防災教育

第05回 大学における災害ボランティア養成の現状と展望(第31回にて更新)

第04回 (記事を統合しました:第22回)

第03回 効果的な防災講演会・研修を開催するには

第02回 都立高校教科「奉仕」の時間を使った防災教育

第01回 防災教育にチャレンジしてみませんか!

第35回 大学・行政・社協・NPO等4者連携による災害ボランティア育成~千代田区内大学での講座開催20年の成果を踏まえて~

 

2023年7月8日(土)、本会は千代田区内大学での災害救援ボランティア講座開催20年の成果を踏まえ、専修大学神田キャンパスで『大学・行政・社協・NPO等4者連携による災害ボランティア育成フォーラム(以下「本フォーラム」)』を開催しました。

本稿では本フォーラムの企画・運営、当日の進行を担当した筆者(災害救援ボランティア推進委員会 防災教育部長 宮崎賢哉)のコメントも含め、レコーディング動画やスライド、内容の補足・解説をご紹介します。

 

当日発表のアーカイブ配信(YouTube)及びメディア紹介

※ 基調講演及び法政大学チーム・オレンジの発表につきましては動画ではご視聴いただけません。
  ご了承ください。
※ 協力団体の 一般社団法人防災教育普及協会 YouTubeアカウントで公開しています。

当日の様子はNHKでも紹介されており、2023年8月時点では動画もご覧いただけます。

● 東京 千代田区 災害対策学生ボランティア 取り組み状況発表|NHK首都圏WEB

 

4者連携による防災・災害ボランティア育成フォーラム概要

フォーラムの概要については こちらの記事 または下記のイベントチラシをご覧ください。

当日は主に大学教職員の方や、学生、社会福祉協議会・行政職員、防災・災害ボランティア団体の方など関係者・発表者等を含め会場で約30名、オンラインで約40名の方にご参加いただきました。オンラインでは関東圏だけでなく全国からご参加いただきました。

フォーラムは第1部と第2部の2部制となっています。それぞれの内容、要点についてご紹介します。

 

第1部 基調講演と成果から考える”これから”

開会挨拶・趣旨説明

冒頭に災害救援ボランティア推進委員会(以下「本会」)委員長の澤野より、開会挨拶としてフォーラムの開催趣旨や講座の開催経緯等についての紹介がありました。

○ 本会働きかけにより2003年9月に法政大学で講座が開催されて20年
○ 取り組みの経過と成果を共有し、今後を議論することが趣旨
○ 区の帰宅困難者対策に伴う大学との協定を踏まえ、災害ボランティア講座に本会が協力
○ 今後に向けては各大学での組織化(強化)や区内他大学への拡大が必要
○ 首都圏災害を想定し、他地域への展開も重要に

本フォーラムでは、首都圏災害、特に地震における帰宅困難者対策とそれに伴う大学生の災害ボランティア活動(自らも帰宅困難でありながら、自発的に取り組む支援活動)について、経過と成果、課題、実際に取り組む大学や学生団体の活動を通じて共有・議論していくことを趣旨としています。

 

基調講演

第1部の基調講演では 東京大学先端科学技術研究センター教授・廣井悠 氏から「大学と事業所等における帰宅困難者対策のこれから」をテーマに、関東大震災の教訓も交えながらお話いただきました。

○ 行政(施設)だけでの対応は困難であり、交通事業者や民間との連携が重要
○ 災害情報の収集、伝達も難しく、事前の取り決め対策が有効
○ 備蓄の重要性(物流の機能不全やストック不足の対策)
○ 3.11の誤解に対する啓発(「あの時帰れたから、次も帰る」という人への対応)
○ 様々な状況を想定したトレーニング(KUG等)の必要性

等について、詳細な研究結果・データに基づきご紹介いただきました。また、最後に廣井先生が作成・公開されている教育訓練用の教材「帰宅困難者施設運営ゲーム(KUG)」についてのご紹介もありました。リンク先のページからダウンロードができますので、ぜひご覧ください。

具体的な実践例は後述する 千代田区キャンパスコンソ の伊藤先生による報告でも触れられておりますので、そちらも合わせてご参照ください。

 

成果報告「首都直下地震への備えと災害ボランティア育成」

成果報告は千代田区・災害救援ボランティア推進委員会、千代田区社会福祉協議会、千代田区キャンパスコンソ、大学コンソーシアム富山それぞれから報告が行われました。

 

▼千代田区・区内大学の防災協定締結20年の成果と今後

 

はじめに、千代田区と区内大学の防災協定に伴う講座開催の成果と今後について筆者から報告しました。

千代田区と区内大学による防災協定の締結状況や、防災協定の内容、千代田区内大学を始めとする講座実施大学の受講生数一覧等から、この20年間で区内大学で多くの学生が災害ボランティアとして養成されていることについて紹介しました。 

4者連携による具体的な講座モデルについての説明では、「大学主催・学生主体」をキーワードに、大学が講座を主催し、学生(教職員)が受講、各大学での学生団体等で活動、さらにその活動をNPO等専門団体がフォローアップする循環型のモデルについて紹介しました。

【POINT】

行政として大学と防災協定を締結し、学生ボランティア養成を支援するというベースを、NPO等専門団体がサポートすること、そして大学・学生の主体性に基づく運営やフォローアップを行ってきたことが長く続く仕組みへとつながっています。こうした取り組みを続けて他大学・他地域へと広めていくことが、首都圏における災害ボランティア養成にとって重要になります。

 

▼ちよだボランティアセンターと大学生災害ボランティア養成講座の歩み

 

千代田区社会福協議会地域支援課ボランティア係災害事業担当の小川様から、社会福祉協議会(以下「社協」)の関わりについてご報告いただきました。

○ 平成21年から学生ボランティア養成に関する事業を区から受託
○ 養成講座の実施に係る補助金申請・精算など事務手続きを行う

○ 社協の災害事業の紹介

○ 東日本大震災後、被災地支援ツアーを実施し学生が参加
  (平成29年までに全6回189名を送り出す)
○ 区内学生によるインカレサークル「CSV(Chiyoda Student Volunteers」の活動を支援

災害ボランティア養成講座のカリキュラム作成や運営等は大学と本会(NPO等専門団体)が行っていますが、講座に際して発生する費用は協定に基づき区が負担する仕組みとなっており、その事務手続きなどを事業として社協が区から受託して行うという形式です。

【POINT】

「災害ボランティア」に関する取り組みは、多くの自治体では各市区町村社協が所管しています。また実際に災害が発生した場合は災害ボランティアセンターを設置するのも(多くは)社協の役割となります。従って行政としても、大学としても、災害ボランティア養成を検討していく際には社協との連携が重要となります。

 

▼自然災害発生時における大学を拠点とした帰宅困難者支援に関する研究報告

 

千代田区キャンパスコンソを代表し、法政大学法学部教授の伊藤様から、帰宅困難者支援に関する研究についてご報告いただきました。

大妻女子大学、東京家政学院大学、法政大学、二松學舍大学、共立女子大学(順不同)の5大学によるコンソーシアムの共同研究として大学における帰宅困難者対策・支援について取り組まれています。

各大学の研究内容や学生・教職員が連携して行う教育訓練の事例、KUGを活用したプログラムなどをご紹介いただきました。

【POINT】

学生が災害ボランティアとして帰宅困難者支援に携わる場合、被災した学生自身が安全に大学に滞留できることが前提となります。そのためには予め大学及び教職員が、帰宅困難者(学生・学外者)への対応について具体的な準備や訓練等を実施しておくことが求められます。

  

▼他地区における4 者連携の具体的な取り組み事例

 

成果報告の最後は他地区における取り組み事例として大学コンソーシアム富山の災害救援ボランティア論について、筆者より報告しました。

富山大学「災害救援ボランティア論」は、本会が首都圏内大学での災害救援ボランティア講座をベースにサポートさせていただき、富山県や大学の先生方のご協力も得て2005年(平成17年)から開催されています。平成25年4月に大学コンソーシアム富山が設立されたことにより、県内各大学の単位互換科目として災害救援ボランティア論が設定され、これまでの18年間で878名の学生が修了しています。

【POINT】

千代田区は大学が多いため区内での協定やコンソーシアムでも規模としては大きくなりますが、全国的に見ていくと都道府県単位での大学コンソーシアムや社協との連携のほうがスムーズ、という場合も考えられます。それぞれの地域の取り組みを踏まえて進めていくことがポイントになります。

 

活動報告「災害救援ボランティア講座実施大学と学生の活動」

休憩を挟んで、講座を実施している各大学の学生団体や教職員の方からご発表いただきました。それぞれの大学からの発表内容につきましては アーカイブ配信動画(YouTube) でご覧ください。

【POINT】

成果報告の冒頭で「循環型の支援」モデルについてご紹介しましたが、各大学の学生(団体)や教職員の方が防災・災害ボランティアに関する活動に取り組む際のヒントを得たり、交流を深めたりする場として災害ボランティア講座や各種のイベントについて社会福祉協議会や、NPO等専門団体が協力していることがポイントになります。

 

閉会挨拶

閉会挨拶は、専修大学学生生厚生部学生生活課課長の赤松様からいただきました。

赤松様ご自身も他大学での講座の受講生であり、受講がきっかけとなって専修大学の講座開催、そして講座を受講した学生による学生団体の設立、復興支援・防災・災害支援活動等へとつながっています。

 

第1部まとめ

冒頭に本会委員長の澤野が述べた通り、この間の20年間の積み重ねの実績と成果を踏まえ、千代田区内はもちろん、他区他県へと拡げていくことが首都圏における地震災害、特に課題が多い帰宅困難者対応・対策等の面で重要になります。

各大学・学生団体、関係機関・団体、そして本会の活動が、本レポートをご覧いただいている関係の皆さまの今後の取り組みの一助となりましたら幸いです。

第1部はこちらで終了となりますが、引き続き会場・オンラインで希望者を対象とした第2部を行いました。

 

第2部 ワークショップで考える”これから”

第1部は聴講のみの座学形式でしたが、様々な立場の方々の参加を想定し意見・情報交換をしながらこれからの防災・災害ボランティア育成を考える場としてワークショップを行いました。ワークショップは筆者が担当しました。

ワークショップでは、第1部での様々な講座や活動内容を踏まえて「私たちにできること」をテーマに、防災・災害ボランティア育成に関するイベントを企画するという内容で行いました。

○ 防災イベント等で自分にできることを書いたカードを参加者で交換する
○ 家具転倒防止等をリアル体験(交通安全教室のスタントのように)できるイベント
○ 身近にあるものを活用した炊き出し訓練

など、様々な企画が提案されました。時間の都合上、最優秀企画を決めるのではなく、それぞれのイベントの良いところを共有してまとめとしました。

 

第2部(全体)まとめ

第1部、第2部を通して大学教職員・学生の方から団体で活動されている方、社協職員の方、公共関係で勤務される方まで、幅広く様々な方が参加されました。それを踏まえて、全体を通してのまとめとして「ひとりひとりがアクションを起こす」ことの大切さをお伝えしました。

どんなに大きな取り組みも、20年以上続く取り組みも、スタートは大学・社協・行政・NPO等のなかで「誰か」が防災や災害ボランティア育成に取り組もうというアクションを起こしたことから始まっています。

最初は本フォーラム第2部のようにちょっとした「アイデア・思いつき」くらいの取り組みかもしれません。ですが、始めたときに、あるいは続けていくうちに、多くの方が関わってくれるようになり、やがて大きな・長期的な取り組みへとつながる可能性を秘めています。

本稿を最後までご覧いただいた皆さまでしたら、そのスタートを切る、あるいはスタートしている人たちをサポートできる立場にある方が多いのではないかと思います。首都圏災害に備えた防災・災害ボランティア育成のため、ぜひ皆さんの力をお借りできれば幸いです。

ご意見・ご質問や、講座開催等に関するご相談は お問い合わせフォーム からお知らせください。


【文】

宮﨑 賢哉
 災害救援ボランティア推進委員会 防災教育部長
 一般社団法人防災教育普及協会 教育事業部長
 社会福祉士

※「防災ミニ講座」の内容は全て執筆者の意見であり、団体の意見を代表するものではありません。記事に関するご意見・ご質問はお手数ですが お問い合わせフォーム よりお願い致します。

第34回 災害の記憶を未来へつなぐ「防災教育と災害伝承の日(3月11日)」制定の呼びかけはじまる


活動紹介ページ でもご紹介しているとおり、東北大学災害科学国際研究所所長・教授の今村先生、日本安全教育学会理事長の戸田先生を共同代表とした呼びかけ人により、3月11日を「防災教育と災害伝承の日」として制定することを提唱する活動が始まっています。

呼びかけ人には阪神・淡路大震災記念人と防災未来センター長の河田先生、防災教育チャレンジプラン実行委員会委員長の林先生、弊会の関係団体でもある一般社団法人防災教育普及協会会長の平田先生い、そして歴史地震研究会会長の松浦先生が名を連ねています。
 

「防災教育と災害伝承の日」特設ページ


宮城県など東北地方、兵庫県や新潟県、熊本県など地震災害の被災地となった各地はもちろんのこと、日本全国から賛同の声が寄せられています。賛同された個人・法人のうちご希望の方のみ、2021年3月13日の記者発表にて事務局となる防災教育普及協会のホームページ上で発表されます。
  

また、同協会のTwitterアカウントでは賛同メッセージなどを #防災教育と災害伝承の日 をつけて発信しています。
 

 

 

 

3月11日をどのような想いで迎えるのかは、ひとそれぞれの考え方があると思いますが「防災教育」そして「災害伝承」という方法で災害の記憶を未来へとつないでいこうという取り組みです。
 

興味のある方はぜひ上記ページから呼びかけ趣旨等をご覧いただき、賛同者としてご登録ください(登録にはメールアドレスが必要です。個人情報は呼びかけに係る事務にのみ使用されます)。
 


【文】

宮﨑 賢哉
 災害救援ボランティア推進委員会 防災教育部長
 一般社団法人防災教育普及協会 教育事業部長
 社会福祉士

※「防災ミニ講座」の内容は全て執筆者の意見であり、団体の意見を代表するものではありません。記事に関するご意見・ご質問はお手数ですが お問い合わせフォーム よりお願い致します。

第33回 遠方被災地と地元被災時で異なる災害ボランティア参加の流れ[イラスト付]

 
災害ボランティア活動への参加を希望される方に向けて、遠方被災地で活動する場合と、地元が被災した場合に活動する場合の2つの異なる流れについて、イラストで整理しました。

 

● イラストのダウンロード方法
1)下記画像をクリックすると拡大します。
2)右クリックで「名前を付けて画像を保存」します。
3)ブラウザで「戻る」とこちらのページに戻ります。

 

● その他
 ・ 使用に際して申請等は不要です。ご自由にお使いください。
 ・ 本資料を使用したことによるトラブル等の責任は負いかねます。

 

▼ 遠方の被災地で活動する場合の流れ

   
▼ 地元が被災した時に
活動する場合の流れ

 


【文・イラスト】

宮﨑 賢哉
 災害救援ボランティア推進委員会 防災教育部長
 一般社団法人防災教育普及協会 教育事業部長
 社会福祉士

※「防災ミニ講座」の内容は全て執筆者の意見であり、団体の意見を代表するものではありません。記事に関するご意見・ご質問はお手数ですが お問い合わせフォーム よりお願い致します。

 

 

第32回 大学生向けに傾聴・他者理解をテーマとした災害ボランティア講座

なぜ「傾聴・他者理解」なのか

東日本大震災の発生以降、各地の大学で学生による災害支援・復興支援活動が続けられています。子どもたちの学習支援や遊び場の提供、イベントの実施などに取り組むことも多くなっています。そこで、本稿では「傾聴・他者理解」をテーマとした災害ボランティア講座についてご紹介します。

[参考] 「災害と他者理解講座~傾聴について理解を深めよう」を開講します|上智大学

「人」が中心のボランティア活動だからこそ

関わる相手が大人でも子どもでも、ボランティア活動は人と人とのつながりの中で行われます。それぞれに考え方や価値観があり、支援側が思っていることとは違う反応や意見が出てくることもあります。そんな時に相手を傷つけてしまうことがないように、逆に自分が必要以上に傷つくことがないよう活動前に「被災された方」、あるいは「被災地」のことをよく考えることが重要です。

「心のケア」や「ストレスケア」は誰にでも必要

『傾聴』とか『心のケア』なんて専門家でないとできないのでは!?と思われるかもしれませんが、筆者としてはもう少し被災された方々の日常に寄り添って考えています。心身に何らかの症状がある、悪化してしまうような場合は専門家の方の力が必要なのは間違いありません。ただ、日頃からの対応については身近にいて、ある程度の期間関わることのできる人の支えも必要です。また、被災地外から関わる学生ボランティア自身も、活動の中で様々なストレスに直面する場合があります。「自分は大丈夫」、「がまんすればいい」と抱え込まずに、向き合うことも大切な経験です。

問題や課題を抱え込まず、話し合うことを恐れずに

本稿での講座内容ではアイスブレイクやワークショップを中心にしています。それは支援に関わる学生には、現地で起きる良いことだけでなく、問題や課題も抱え込まずに話し合ってもらいたいからです。自分の考えや感情を整理して、相手に理解してもらえるように伝えるというのは難しいものです。それが何かつらい経験であったり、苦しい状況にあったのなら、なおさら難しくなります。平時のトレーニングとして、講座は大事な機会だと思います。

ワークシート・資料について

講座で使用したワークシート、カードテンプレート、ケースワークシートはいずれもMicrosoft Word型式でご提供します。関連資料に関するURLなどもご提供します。そちらをご覧いただければ、本稿に近い内容の講座を各大学や学生団体でも実施できます。なお、取り扱う際には注意が必要な部分もありますので、ご希望の方は 問い合わフォーム から事前にご相談ください。

講座内容

講座は以下のような内容で行いました。

導入
冒頭に、当時大学生だった筆者の体験談として、被災地で出会ったご家族を亡くされた方のお話をしました。実際に大切な方を亡くされた方を前にして、声をかけることができなかったこと。被災地から戻ってから「被災者」や「被災地」、「復興」という言葉の意味について、何度も考えたこと。10年以上経った今でも答えは出ないけれど、ひとつだけ分かっているのは『答えはひとつではない』ということ。

他者理解というと大げさかもしれませんが「相手の気持ち、目線になって考える」ということのポイントにもつながりますが、人との接し方には「Aの時はB、Cの時はD」といった絶対的な正解がある訳ではありません。価値観や環境、その時その前後の状況、会話の中身などによって、必要となる接し方も変わってきます。今回の講座の内容もあくまでひとつの事例であり正解例ではないこと、その場面に応じて適切な対応を探っていってほしいという想いも込めて伝えました。

アイスブレイク

アイスブレイクでは、それぞれの人生にとって大切なものについて取り上げながら自己紹介をしてもらいました。同じ大学の学生でも、経験してきたこと、大切にしているものは異なってきます。活動に向き合う姿勢や考え方も、ひとつではありません。まず自分たちの中での違いを知り、受けとめるところから始めます。

他者理解に関するワークショップ

アイスブレイクの流れを受けて、被災された方のことを考えるためのワークショップを行いました。「被災者」あるいは「被災地」とはどのようなものなのか、「復興」とは何なのかについて、話し合ってもらいます。何となく使っている被災者という言葉ですが、ワークショップを行うことで、ひとくくりにすることはできない難しさが浮き彫りになります。

災害ボランティアの安全衛生・被災された方との接し方

筆者が大学の災害救援ボランティア講座で実施している、被災地での活動における安全衛生管理や、被災された方とのコミュニケーションの基礎知識についてお話しました。傾聴や他者理解に関わる具体的なノウハウも事例も挙げてお話しました。

例えば『何かを話すときは、出来事、考え、気持ちの順にすると話しやすい』といったものです。自分がつらい状況にあるときでも、誰かの話を聞くときでも、事実(何が起きたのか)→思考(どう受け止めたか冷静に頭で考える)→感情(率直にどう感じたか、どんな気持ちか)の順を追っていくと聞き手、話し手ともに状況を整理しやすくなります。もちろん、気持ちが先に出てしまうこともありますし、出来事を話したくないということもありますので、その時その方に合わせることも必要です。

グループ・ケースワーク

専用の相談援助演習シートを用いたケースワークです。事例を読んで、それぞれの状況についてワークシートに則って対応や理解について考え、意見を話し合います。これまでのワークショップや講義の内容を参考しながら、ケースワークを進めてもらいます。時間になったら各班から代表的な意見を発表してもらいました(写真)。それぞれの意見について、講師側から大事なポイントを補足しながら解説しました。

 

まとめ ~被災された方への想いは身近な人にも向けて~
まとめでは「無財の七施」などについてお話しました。被災された方々の力になりたい、傾聴やボランティア活動で支援をしたいという想いは、ぜひ身近な人にも向けてほしい、日頃から意識してほしいということです。どんな知識や技術も、平時からどれだけ意識しているかが重要です。毎日毎日傾聴せよ、というのは無理がありますのでそこまでする必要はありませんが、普段からできることもあります。

本記事が皆さまと、身近な方、そして被災された方の力になれば幸いです。


宮﨑 賢哉 (災害支援・防災教育コーディネーター/社会福祉士)
災害救援ボランティア推進委員会主任、(一社)防災教育普及協会事務局長

阪神・淡路大震災以降、被災各地で活動し、2002年にセーフティリーダー(SL)認定。学生SL団体代表として活動し、災害支援や防災に取り組む。2004年より災害救援ボランティア推進委員会で活動経験を活かし、大学での災害救援ボランティア講座や学生団体支援を担当。2014年より防災教育普及協会事務局長を兼務。災害支援・防災教育・社会福祉・公園の指定管理業務など幅広く活動。

※「防災ミニ講座」の内容は全て筆者の意見であり、団体の意見を代表するものではありません。記事に関するご意見・ご質問はお問い合わせフォームより直接筆者へお願いします。

第31回 大学における災害ボランティア育成の現状と展望2017

 

首都直下地震に備え、注目される学生・大学の取り組み

首都直下地震に備えて、災害救援ボランティア活動や地域の防災活動に取り組もうという大学生・大学が増えています。筆者は、在学中から積極的に大学における災害ボランティア育成や学生ボランティアの支援に取り組んできました。弊会(災害救援ボランティア推進委員会)の取り組みを中心に、大学における災害ボランティア育成の現状と展望、大学生による組織的な災害・復興支援や地域防災活動等についてご紹介します。

 

大学における災害ボランティア育成

災害救援ボランティア推進委員会は平成7年の阪神・淡路大震災を契機に設立された民間団体です。総務省消防庁が示す基準に基づく講座「災害救援ボランティア講座」を行い、災害救援、地域防災を担うリーダーを育成、大規模災害の被害を軽減することを目的として活動しています。

同会の災害ボランティア育成の仕組みは首都圏を中心に多くの大学で取り入れられており、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震での帰宅困難者対応や、その後の学生ボランティアの復興支援活動へとつながっています。 平成28年実績では、1年間に11の大学で13回の講座が開講されています(一部大学は1年間に2回講座を実施)。これほど多く、また長く継続的に大学と連携しながら災害ボランティア育成を行っている団体は他にありません。

 

災害救援ボランティア講座の内容

「災害救援ボランティア講座(以下「講座」)」は、東京消防庁のOBによる座学講義、公益財団法人東京防災救急協会
による上級救命技能講習、立川・本所・池袋にある「防災館」での模擬体験と実技、災害ボランティア活動の経験者による実践的な演習がパッケージ化されています。平成29年8月現在で公開されている講座情報については、災害救援ボランティア推進委員会のホームページからご覧ください。

 

 

基本的なカリキュラム構成は次のとおりです。大学によっては、学生団体による活動紹介や地元社会福祉協議会の講義、大学に所属する教授による特別講義などを取り入れる場合もあります。

 

災害救援ボランティアの基本(90分) 災害救援ボランティア活動の経緯など総論的な講義
災害と防災対策の基本(90分) 自然災害や防災対策の基礎知識についての講義
出火防止と初期消火(90分) 首都直下地震等で課題となる火災対策についての講義
応急手当活動(上級救命技能講習/8時間) 心肺蘇生法、AED操法、三角巾や搬送法等の実技
災害模擬体験と実技(2時間) 立川・本所・池袋防災館での模擬体験と実技訓練
被災地での安全衛生と被災された方との接し方(90分) 安全衛生と被災された方のことを学ぶ講義・演習
災害情報の収集・伝達とコミュニケーション(90分) 被災地支援や被災時に役立つ、災害情報情報の取り扱いを学ぶグループワーク
リーダーシップとチーム・ビルディング(120分) 災害ボランティアとしてのチーム活動を学ぶ図上演習
(その他大学別プログラム) 大学・学生団体による活動紹介や、教授による特別講義など

 

このうち、筆者が指導を担当しているのは「被災地での安全衛生と被災された方との接し方」、「災害情報の収集・伝達とコミュニケーション」、「リーダーシップとチーム・ビルディング」の3科目で、いずれも実際に被災地で直接求められる知識と理解、行動に関わる部分となります。

 

Point:複数大学で科目共有する「振替受講」のシステムで受講者をフォロー

これらのカリキュラムはほぼ全ての大学で共通しており、体調不良等で一部科目を欠席してしまった場合などは、他大学で振替受講することもできます。大学生の時間は4年間と限られています。1年に1回しか機会がないのでは、3年生・4年生はどうしても受講機会が限られてしまいます。体調、学業や就職活動、アルバイトなどで時間的な制限があっても、災害ボランティアについて学びたいという意欲を受けとめるための仕組みが整っていることも大きな特徴です。

 

「セーフティリーダー」の認定と推移

講座の全科目を修了した方には、災害救援ボランティア推進委員会から「セーフティリーダー(以下「SL」)」の認定証が交付されます。都内大学で開講した場合は東京消防庁から「上級救命技能認定証」も交付されます。大学が主催する講座の場合は、認定証に大学名も記載されます。SLの認定者数推移にも他にはない特徴がありますので、具体的なデータに基づいてご紹介します。

 

Point:「災害救援ボランティアや防災を学びたい」学生の増加

筆者が担当している東京都内を中心とする大学での「災害救援ボランティア講座」ですが、年々開講数が増えています。平成16年度は年間10回だった講座の開講数が、平成26年度には19回とほぼ倍の開講数になりました。

講座修了生については、平成24年度、平成25年度はいずれも500名を越える修了生数となっていますが、平成26年度では500名に至りませんでした。東日本大震災など、大きな災害が起きてからある程度の期間が経つと、災害救援活動や防災への社会的な関心は相対的に低下していく傾向にあります。

ただ、減少しているだけでなく大きく上昇しているポイントもあります。そのポイントは、今後数十年の防災対策や災害ボランティア活動にも良い影響をもたらすポイントだと考えています。何かというと【修了生数に占める学生(大学生、中高生・専門学校生)の割合】です。

具体的なデータを示すと、平成16年度では33%しかなかった学生の割合が、平成22年度には71%になり、平成26年度においても64%まで上昇しています。グラフでは記載できていませんが、平成27年度・28年度は約70%となっています。災害救援ボランティアや防災に関する講座は様々なものが開講されていますが、これほど顕著に、かつ継続的に大学生が参加し続けているのは災害救援ボランティア推進委員会の講座の特徴です。

 

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表1 講座修了生数に占める学生の割合(黄色マーク)

 

「大学主催」の仕組みが学生の意欲・関心の受け皿に

こうした特徴を支えているのは「大学が主催して講座を開講する仕組み」があるからです。専門的な知識や技能を有する外部団体が、大学が主催する災害救援ボランティア講座に協力し、大学は講座を受講した学生や教職員がともに、平時の防災活動や災害時の協力体制構築をしていく仕組みです。

都内大学での平成16年度の修了生数は、186名中91名が学生(5回開講)でした。平成26年度の修了生数は、297名中227名が学生(12回開講)でした。数値を比較すると修了生数が62.6%増、学生比率は27.5%増、開講数は7回増えています。

なお、最新(平成29年8月末)学生の講座修了生数が多い上位10大学は次のとおりです。10大学の合計人数は2,975名となります。講座は全国の学生が受講しており「セーフティリーダー」の認定を受けた学生がいる大学は約200大学にもなります。学生修了生の総数は4,611名ですので、上位10大学の修了生が全体の64.5%を占めているということなります。

 

 1位 明治大学  598名 ※協定に基づく、千代田区支援事業、大学主催
 2位 専修大学  548名 ※協定に基づく、千代田区支援事業、大学主催
 3位 中央大学  425名 ※大学(学生部)主催
 4位 法政大学  356名 ※協定に基づく、千代田区支援事業、大学主催
 5位 富山大学  346名 ※大学コンソーシアム富山主催による単位互換
 6位 目白大学  203名 ※大学主催
 7位 上智大学  191名 ※協定に基づく、千代田区支援事業、大学主催
 8位 工学院大学 135名 ※大学主催
 9位 立教大学   98名 ※大学ボランティアセンター主催
 10位  聖心女子大学 77名 ※大学総務部が他大学講座へ学生を派遣

 

いずれの大学も、ボランティアセンターや学生生活課等が中心となって、災害救援ボランティア講座を開講したり、受講を支援しています。このようなデータからも「大学が災害救援ボランティア講座を主催」していく仕組みが、多くの学生の参加を促していることが分かります。前述のとおり、振替受講の仕組みもありますので、他大学での講座を含めれば1年間に何度も参加の機会があることになります。

逆に言えば「災害・防災ボランティアに関する講座がない」、あるいは「講座受講を希望する学生を支援する仕組みなどもない」、多数の大学の学生は、どうしても学ぶ機会が限られてしまうということです。

もちろん、ボランティアですので環境に関わらず率先して行動できることが理想的ですが、せっかく学んだことを大学・地域に還元するためには、やはり大学が中心となって取り組むことが重要であると考えられます。 災害救援ボランティア推進委員会では、大学主催の講座や体制づくりについての提案も行っていますので、お気軽にご相談ください。


図1 大学主催による「災害救援ボランティア養成講座」ご提案
(クリックすると新しいウィンドウで拡大します)

 

活動経験に基づく「大学と学生の連携」強化

こうした大学主催の講座開催の仕組みを推し進めている背景には、筆者自身の活動経験があります。 冒頭の別記事でもご紹介していますが、筆者が学生だった2000年前後は、災害ボランティア活動や防災活動は今ほど一般的ではなく、ごく限られた一部の学生・団体が取り組んでいるだけでした。そうした社会的背景の状況で、学生だけで活動に取り組むのは難しい、と感じることがたくさんありました。「もっと大学、教職員の方と連携して活動できたら、いざという時にもスムーズに活動できるはず」という想いが、大学と学生が連携する仕組みづくりにつながっています。

 

Point:行政と大学が連携した災害救援ボランティア育成モデル

「大学と学生の連携」を具体化しているモデルをご紹介します。 平成16年に千代田区は明治大学と「大規模災害時における協力体制に関する基本協定」を締結しました。主な内容は学生ボランティアの育成、地域住民及び帰宅困難者等被災者への一時的な施設の提供、大学施設に収容した被災者への備蓄物資の提供の3点です。

千代田区は明治大学との締結を皮切りに区内の全大学と防災協定を締結しています。 明治大学と法政大学は平成16年、協定に示される学生ボランティア育成として災害救援ボランティア講座を取り入れました。これがきっかけとなって現在、上智大学、専修大学でも導入され、現在の大学主催の講座開催の基盤となる仕組み「千代田モデル」ができました。

千代田モデルでは、大学が施設を提供するだけではなく、学生ボランティアの育成、派遣を努力目標に掲げている。その具体化として大学が災害救援ボランティア講座を主催していること、災害ボランティア団体が講座を支援していること、行政(千代田区)がその取り組みを支援していることに特徴があります。

 

キャプチャ

 

平成17年から富山県では、大学コンソーシアム富山が中心となって富山大学等を会場に県内の大学生を対象とした災害ボランティア育成を行っています。「富山モデル」の特徴は、複数の大学が連携して講座を開講し、共通単位科目として認めている点にあります。どちらのモデルも大学と行政、外部の災害ボランティア組織が協力することにより、災害ボランティア育成の専門性を高めながら継続しています。

 

大学と学生による自発的な活動

一般的に外部団体による講座は、修了後は該当団体での活動や参加を前提としたものが多いのが特徴ですが、筆者が紹介している講座では「大学による、大学・学生・教職員のための」講座を目指しています。明治大学災害救援班専修大学SKV 法政大学チームオレンジ 上智大学SVN 中央大学チーム防災 など、各大学で講座を修了した学生が参加する学内活動も積極的に行われていますので、関心のある学生さんや教職員の方は、各リンクからぜひチェックしてみてください。

 

(参考)首都圏における災害時の活動

平成23年3月11日、東北地方太平洋沖地震の影響により、千代田区内でも多くの帰宅困難者が発生しました。明治大学、法政大学、専修大学、上智大学の学生ボランティア育成に取り組む4大学は区の指示を待つことなく、率先して滞留する学生・教職員と帰宅困難者の支援活動に取り組まれていました。 筆者自身も震災当日から翌日にかけて区内4大学で、帰宅困難者支援活動の情報収集やサポートをさせていただきました。

いずれの大学も大きな混乱なく施設を開放するとともに、学生・教職員が協力して情報提供や毛布等の救援物資を配布されていました。学生が支援活動に協力していた大学もあり、円滑な支援活動の裏側には、平時からの防災協定と協定に基づくボランティア育成、その浸透もあったと考えられます。

また、その後の復興支援活動では災害ボランティア育成を行う大学も被災地へ学生を派遣しています。平成23年、平成24年を中心に、被災地での支援活動を希望する学生に対する事前説明会を開催するなどの取り組みを行っています。

専修大学では平成23年4月2日から5日にかけて、石巻専修大学支援に学生ボランティアを派遣しています。この時期に多くの大学は学生の安全や現地の情報不足を考慮し、安易に被災地へ入らないよう呼びかけていました。しかし、専修大学では災害救援ボランティア講座を修了したメンバーによる学生団体「SKV」を中心とすることで、ボランティアが必要とされる早期段階での被災地派遣が実現しました。また、夏期に行われた石巻支援活動では、SKVメンバーが一般学生のリーダーとなって支援活動に取り組みました。

 

大学による災害ボランティア育成の展望

2017年現在の大学生は、2011年の東日本大震災発生当時、中学生~高校生です。テレビやインターネットで被災地の情報に触れることはあっても、なかなか実際に被災地で活動することができなかった、何かしたくてもどうしたらいいか分からなかった、という方も多いようです。

大学生になって、行動範囲も広がり、様々なことに挑戦できるようになると「災害ボランティア活動」がぐっと身近になります。一方で「いざ災害ボランティアについて学びたい」と思っても、学ぶ機会が限られているのも事実です。2011年以降はいろいろな団体が災害ボランティア講座を開講していますが、なかなか日程が合わなかったり、特定の団体色が強すぎてなかなか個人では参加しづらいというケースもあります。

せっかく興味・関心があっても、教育訓練の機会がなければその意欲を活かすことはできません。 これまでも、そしてこれからも自然災害は相次いで発生し、その様子を見ながら成長する中高生は一定数いると考えられます。大学が「災害支援や防災に関心の高い」大学生の受け皿になるための仕組みづくりが、これからの社会にとって重要であると考えています。

災害はいつ起きてもおかしくない状況であることに変わりはありませんが、今後20年、30年に渡って社会を支えていくことになる学生・若者が、在学中に災害救援ボランティアや防災について学ぶ機会を持つことは、将来的な日本の、地域の防災力向上につながるはずです。

図3 東日本大震災直後に活動した学生も、今は各方面で活躍(撮影:2012年)

 

本稿をもし大学教職員の方がご覧いただいているようでしたら、ぜひ興味・関心のある学生さんと一緒に、災害ボランティアや防災に関する講座を実施していただきたいと思います。もし学生の方がご覧いただいているようでしたら、ボランティアや学生活動の担当部署に相談してみてください。もちろん、お声がけいただければできる限りのご協力をさせていただきます。

 


宮﨑 賢哉 / 災害救援ボランティア推進委員会主任、(一社)防災教育普及協会事務局長
 阪神・淡路大震災以降に被災各地で活動し、2002年にセーフティリーダー認定。学内で学生団体を設立し、災害支援や防災に取り組む。2004年(公財)日本法制学会(災害救援ボランティア推進委員会の運営法人)入社後は、経験を活かして大学での災害救援ボランティア講座や学生支援を担当。教育・福祉、公園指定管理など幅広く活動中。

第30回 地域連携プログラム『地域における防災教育の実践』

第30回 地域連携プログラム『地域における防災教育の実践』

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、社会福祉士
災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長

 

【サマリー】

本記事は災害救援ボランティア推進委員会が認定する「地域防災インストラクター」養成講座のために作成したものです。広くインストラクター希望者にご利用いただくため、全文を災害救援ボランティア推進委員会ホームページで公開しています。本文の一部リンクはホームページにアクセスすることで利用できます。また、本記事の内容は全てPDFでダウンロードしていただくことができます。

★資料ダウンロード(平成29年度神奈川県学校保健・学校安全研修版)

▶ 地域における防災教育の実践に関する手引きテキスト[PDF]

 

1『地域における防災教育の実践に関する手引き』紹介 

「地域における防災教育の実践に関する手引き」は、平成27年3月に内閣府(防災担当)が公開した冊子です。内閣府(防災担当)は、2004年度から防災教育の専門家や有識者と共に『防災教育チャレンジプラン』という防災教育支援事業を実施しています。防災教育チャレンジプランの支援によって、数多くの学校や団体が防災教育を実践し、様々な防災教育プログラムや教材が開発、使用されました。東北地方太平洋沖地震の後、防災教育の象徴的な事例として取り上げられた岩手県釜石市立釜石東中学校の地域と連携した防災教育の取り組みも、2010年と2011年、同プランに採択されていました。

こうした積み重ねによる豊富な事例や教材を整理し「防災教育にチャレンジしたいけれど、何からはじめ、どうしたらいいか分からない」方々、特に地域や学校の防災教育に関わる立場の方々に向けて作成されたのがこの手引きです。

本テキストは、筆者が手引き作成時の事前ヒアリング調査や項目分類、関係団体への防災教育実践等にご協力させていただいた経験から、手引きをより効果的に活用するためのポイントや、掲載されている代表的な教材などについて、手引きの構成を中心に取り上げ、各項目についてご紹介します。地域・学校における防災教育実践の一助となれば幸いです。

なお、本資料は講義実施後に『災害救援ボランティア推進委員会』ホームページ上よりPDF型式でダウンロードできます。地域での活動等でお役立てください。

1.1 関係リンク(クリックでアクセスできます)

 

2 手引きの概要

2.1 背景と目的

手引きが作成された背景や目的は、本体1p.より引用します。


"我が国では、毎年、地震や風水害など、多くの異常な自然現象が発生しており、これらの自然災害による被害を小さくするためには、「自助」、「共助」、「公助」の取組が重要です。平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、大規模広域災害時における「公助」の限界が明らかになった一方で、「自助」、「共助」の重要性が再認識され、これをきっかけにして、「自助」、「共助」の力を向上させる取組として、防災教育への関心が高まっています。しかし、何から始めればよいかわからない、活動を行うための資金や知識がないなどの様々な課題により、取組が進まない事例が存在します。本手引きは、このような状況を踏まえ、全国各地で防災教育を推進することを目的として、優秀な先進事例から得られる取組を進めるための知見を整理し、防災教育を実践する過程で生じる様々な課題を解決するためのヒントを示すものです。” 


 防災教育を学校や地域で取り組もうとすると、様々な課題があります。その課題や解決策を「ポイント」として整理・共有することで、防災教育の実践を普及していくことが、手引き作成の目的です。

 

2.2 手引きの対象

教育・福祉関係団体(学校、幼稚園、保育施設など)に限らず、地域住民団体、ボランティア団体、地方公共団体などにおいて、これから防災教育に初めて取り組もうとする方が主な対象になっています。

 

2.3 防災教育を実践するにあたって

2.3.1 防災教育の目的

『地域に属するひとりひとりの防災意識の向上を図り、地域内の連携を促進することなどにより、地域の防災力(災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ及び災害の復旧を図る力)を強化すること』が防災教育の目的として示されています。必ずしも対象は児童生徒だけではありません。

 

2.3.2 防災教育を実践する上での五箇条

地域の特性や問題点、過去の被災経験を知ること。

防災教育を実践するにあたっては、まず地域の脆弱性(過去にどのような災害が発生し、どの程度の被害が出ているか等)を把握し、想定される災害リスクを的確に捉えることが必要です。また、自然を「過去に大きな被害をもたらした恐怖の対象」として伝えると、学ぶことや考えることを避けてしまいがちです。自然が与えてくれる美しい景観や様々な恵み、日本で暮らすことの価値や意味も、併せて伝えていくことが求められます。

「自然災害によって被害を受ける可能性がある」ということは厳しい現実ですが、一方で日常的にたくさんの恩恵も受けている、という自然の二面性について理解を促すことも、防災教育の大切な役割のひとつです。

 

まずは行動し、身をもって体験すること。

防災教育を実践しようと思う方は、まずは自ら行動に移し、周囲にその必要性と成果を示すことが重要です。防災対策や防災教育の必要性は理解しつつも「具体的にどうしたらいいのか分からない」あるいは「他に優先してやらなければならないことがある」という理由から、なかなか具体的な実践に結びつかないことがあるかもしれません。
 そうした場合は例えどんなにわずかな、初歩的な取り組みだとしても、誰かが行動を起こすことが重要です。後述するように、手引きには楽しみながら気軽に取り組める教材やプログラムについての情報も掲載されています。まずは実践したいと思う方が、自ら身をもって体験し、チャレンジしましょう!

 

身の丈に合った取組とすること。

決して無理をせず、欲張らず、自分たちのできる範囲で取組を進めることです。手引きやインターネットにはさまざまな防災教育実践が掲載されています。ただ①で紹介したように防災教育はそれぞれの地域特性などに応じた実践が必要です。別の地域、別の学校で取り組まれた内容がそのまま適用できるとは限りません。優れた実践は、様々な実践を積み重ねて成果を挙げています。焦らず、少しずつできるところからはじめ、継続していくことが大切です。

 

様々な立場の関係者と積極的に交流すること。

 防災教育、そして実際の災害発生時に関わるのは学校と児童生徒、保護者や地域住民だけではありません。消防や防災課、NPOや民間企業・団体、自主防災組織など、周囲の関係者と協力・連携することが重要です。積極的な交流のなかから新しい知見が生まれ、より効果的な実践につながります。
 いきなり交流するのが難しいと感じる場合は防災教育チャレンジプランが主催する「防災教育交流フォーラム」などのイベントに参加し、同じ目的や課題を共有する実践団体と交流してみるのも良いでしょう。皆さんと同じような課題を持ち、また解決に向かって取り組む「仲間」が見つかるはずです。

 

明るく、楽しく、気軽に実行すること。

最後は、日常生活の中で気軽に継続できる取組を進められるよう、楽しみながら実践することです。防災教育は目に見える成果が出にくいものです。それでいて、長期間に渡って地道な継続が求められる取り組みでもあります。「やらなければならない」という想いだけが強くなってしまうと、自分も周囲も続けるのが苦しくなってしまいます。明るく、楽しく、気軽に実行することからはじめてみましょう。

 

2.4 地域における防災教育を実践する上で重要なポイント

2.4.1 3つの段階を意識する

地域における防災教育の実践には3つの段階があります。

 

【準備】

 地域の災害特性や児童生徒の発達段階、学習テーマ、予算、関係団体との調整など、防災教育を実行するまでの様々な準備の段階です。地味で手間のかかる段階ですが、この段階でしっかりと内容を詰め、関係者と調整を行っておくことがその後の実行・継続段階に影響します。じっくりと時間をかけて準備しましょう(初めてチャレンジされる場合の目安としては実際に授業を行う2~3ヶ月前からの準備をオススメしています)。

 

【実行】

防災教育を実践する段階です。準備してきた内容に基づいて実践します。うまくいかないことがあるかもしれませんが、前述のように「まずは身をもって体験す る」ことが重要です。しっかりと準備をしていれば、大きな失敗をすることはないかと思いますが、それでも「思ったより時間がかかってしまった」とか「うまく伝えたいことが伝えられなかった」「児童生徒が興味をもって参加してくれなかった」などが課題になることもあります。実践の成果を正しく評価するためにも、振り返りシートやアンケートなど実践結果を確認できるような準備をしておくことも大切です。

 

【継続】

準備し、実行したら次は「継続」です。同じ対象(同じ児童生徒)に繰り返し防災教育を実践することは難しいかもしれませんが、同じ地域、同じ学校等で継続することが重要です。また、継続するためには【担い手】や【つなぎ手】を育てていくことも必要です。 なるべく多くの人と協力しながら防災教育を実践し、中心的な人物が異動等によって実践に関わることが難しくなった場合でも、継続できるような仕組みをつくりましょう。予算についても重要で、助成金などをアテにした実施では助成金がなくなったあとが辛くなります。なるべく経費を抑え、無理のない実践を工夫しながら継続します。

 

2.4.2 6つの要素でポイントを整理しておく

手引きでは防災教育実践に関わる要素を次の6つで整理しています。

人【担い手・つなぎ手】
防災教育を実践する担い手(教員やボランティア、場合によっては生徒自身も含む)やつなぎ手(実践をサポートしたり、継続的に関わってくれたりする人たち)のことです。「教育は人なり」という言葉がありますが、防災教育もまた同様です。

運営【組織・体制】
防災教育を実践する主体、受ける主体、そしてそれらをつなぐ組織や体制のことです。特に手引きでは地域から学校へのアプローチを大切にしていますので、学校と地域をまきこんでいけるような組織・体制づくりがポイントになります。

場【時間・場所】
防災教育をいつ、どこで実践するかということです。時間は短い場合は数十分、長い場合は数時間まで幅広く対応できるようなプログラムがあると便利です。場は学校が多いかと思いますが、まちあるきなどは地域が場所となることもあります。

お金【資金・経費】
防災教育実践にどの程度の資金・経費が必要かということです。どれくらいが適切か、という基準はありませんが、公的機関やボランティアの方に指導を協力してもらうなど、なるべく支出を抑えた実践が望まれます。単に「節約のため」ではなく「自分たちの責任でやるのだ」という想いをもって準備することがポイントです。

ネタ【知識・教材】
防災教育実践にどのような知識が必要で、どんな教材を使うか、ということです。はじめはなるべくシンプルで、負担のかからない教材を活用していただくこと をオススメしています。下記に手引き本体にも紹介されており、かつ筆者がこれまでの実践経験から「これから防災教育にチャレンジしてみたい!」という方にオススメする「防災教育実践教材7選-小中学校編-)」を記載しますので、ご参照ください。

1 ぼうさいダック(一般社団法人日本損害保険協会)
 → 学習テーマ例【災害・危険発生時の安全行動の理解】、幼保育園~小学校

2 うさぎ一家のぼうさいグッズえらび(一般社団法人防災教育普及協会,宮﨑)
 → 学習テーマ例【防災グッズ、家庭の備え】、小学校~一般

3 なまずの学校(NPO法人プラス・アーツ)
→ 学習テーマ例【地震災害対応、身近なものの活用、備え】、小学校中学年~一般

4 災害対応カードゲーム教材「クロスロード」(チームクロスロード)
 → 学習テーマ例【災害時のコミュニケーション、意思決定】、中学生~一般

5 災害状況を想像してみよう!(東京大学生産技術研究所目黒研究室、防災教育普及協会,宮﨑)
 → 学習テーマ例【災害状況を想像する、適切な対策をとる】、中学生~一般

6 まちのBOSAIマスター(高齢者住まいる研究会)
 → 学習テーマ例【防災基礎知識、備蓄など様々】、小学校低学年~一般

7 ぼうさい探険隊(一般社団法人日本損害保険協会)
 → 学習テーマ例【地域理解、防災マップ、安全点検】、小学校~一般

※各教材の詳細、学校・家庭・地域における防災教育での活用法についてはお気軽にご相談ください。

手引き本体の巻末には他にも様々な教材やプログラムの紹介ページが、専門家によるチェックのもと掲載されていますので、併せてご覧ください。

コツ【工夫】
過去に行われた(他の地域も含めて)事例や教訓などから、実践を効果的・効率的に行うためのコツや工夫です。実践内容そのものだけでなく、例えば「まず年度初めに●●の●●さんにあいさつに行って、日程や内容の調整をしておく」といった、人間関係に関わるような実務的なことも忘れがちですが重要なポイントです。

 

2.4.3 18のポイント

手引きは、前述の3つの段階と6つの要素を組み合わせた合計18のポイントで整理されています。どの段階で、どんな要素に関連した課題や「つまづき」があるかをイメージしてから手引きを手にとっていただくと、より課題解決がしやすくなります。

(地域における防災教育の実践に関する手引きの概要 より)

 

3.手引きを有効に活用するための6つのポイント

以上のように、手引きはこれまで様々な実践を重ねてきた団体を対象に丁寧なヒアリングを行いポイントが整理されたものです。さらにこの手引きを有効に活用していただくためのポイントを、筆者なりに6つにまとめてみました。

 

3.1 まずは「防災教育はどう実践されるのか」全体像を把握しよう

既に防災教育を実践されている方も、あるいはこれから実践しようという方も、まずは冊子を手に入れる、もしくはインターネットを使って内閣府(防災担当)のページからダウンロードしていただき、ご一読いただくことをオススメします。手引きは防災教育実践を「特定の、誰かができること」から「どの地域の、誰でもできること」にできるよう、作成されています。近年の被災経験地域でも、そうでない地域でも、標準化(スタンダード)された防災教育の実践手法を確認しておくことが大切です。

「とにかく災害や防災について教えれば防災教育になる」という考え方もあります。ですが、発達段階や理解度、環境を踏まえなければ、学びたいという意欲をうばってしまったり、逆にリスクを高めたりしてしまう可能性もあります。指導者が「伝えたい」と思っている内容と学習者(児童生徒、住民)や依頼者(講師依頼等を受けた場合の学校や自治会等)が望んでいることは、同じではないかもしれません。

伝えたいことをそのままぶつけるのではなく、手引きとひとつひとつ照らし合わせながら、順を追って慎重に進めていくことも必要です。

 

3.2 学校関係者など、実践に関わる人に手引きを読んでもらおう

3.1で確認したら、防災教育実践の「担い手・つなぎ手」つくりのきっかけとして、ぜひ近隣の学校関係者や防災関係機関などに手引きを読んでいただくのも効果的です。手引きでお伝えしたい大切なノウハウは、自分(指導者)だけが知っているだけでなく、学校関係者、自治会役員、防災関係機関など知っていることで、より高い効果を発揮することでしょう。A4一枚の「概要版」もありますので、活用してください。

 

3.3 手軽な教材やプログラムから試しにやってみよう、マネしてみよう

前述の「防災教育実践教材7選」のように、過去の実践事例が豊富にあり、教材としてシンプルなものをまず試してみることをオススメします。特に「ぼうさいダック」や「うさぎ一家の防災グッズえらび」、「まちのBOSAIマスター」は、短時間でもできる教材として作成されています。はじめて使ってみる教材としては、適当と言えるでしょう。

 

3.4 まずは継続、それからレベルアップ!

防災教育実践五箇条にも書いてありますが「身の丈に合った」実践が重要です。そしてその実践が「継続」できることもまた同じく重要です。手軽な教材、あるいは新しく考えた教材やプログラムを、学校や地域の防災教育の場面で何度か実践してから、より高いレベルでの実践を目指してチャレンジしましょう。

「時間と労力とお金をたくさんかけて、素晴らしい実践をする」のは大事なことですが、中心人物がいなくなった途端にやらなくなってしまった、水準が維持できなくなってしまった、という事例もあります(「防災教育の属人化」と言っています)」。その地域や学校で、無理なく気長に続けられるような実践が求められます。

 

3.5 成果は広く発信、学校・家庭・地域に伝えていこう

継続していくためには、一人でも多くの理解者(担い手・つなぎ手)が必要です。実践した成果は広く学校、家庭、地域に伝えていきましょう。防災教育チャレンジプランホームページで公開されている、支援事業への応募や交流会への参加も効果的です。

近年はSNS(ソーシャルネットワークサービス、ツイッターやフェイスブックなど)を利用される方も増えている一方で、あまりパソコンやインターネットを使用されない方もいます。地元の新聞社やケーブルテレビ局に情報を提供することも、実際の災害時に有効なつながりになりますので、効果的な情報発信を兼ねた関係づくりといえます。

 

3.6 “関心がない、参加しない、協力的でない”人のことも考えよう

【防災4.0とは】我が国は、その自然的条件から、様々な災害が発生しやすい特性を有しており、これまでの度重なる大災害の教訓を踏まえ、防災に関する取組を推進してきました。特に伊勢湾台風(1959=1.0)、阪神淡路大震災(1995=2.0)、東日本大震災(2011=3.0)は大きな転換点となってきました。気候変動がもたらす災害の激甚化は、これら大災害に相当する可能性があり、行政だけでなく一人一人が災害のリスクとどう向き合うかを考え、備えるための契機となるようあらたな防災減災対策の方向性を打ち出したいという決意を込めて、本プロジェクトの名称に「防災4.0」を冠しました。(内閣府ホームページより)

  
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kenkyu/miraikousou/

 防災4.0未来構想プロジェクトでは、これからの災害リスク対策には防災教育や地域での防災活動(訓練、イベント、ワークショップなど)を通じて、広く国民に防災意識の普及啓発を進めていくことが重要と考えられており、様々な取り組みが進められています。地域防災インストラクターの活動はますます重要になってくると言えます。
 その一方でどのような地域、学校、団体でも「防災に関心があり意欲的で講習や訓練に参加する」人たちばかりではありません。皆さんからしたら「関心がない、行動力がない、やる気がない」と感じてしまう方もいるかもしれません。

 ですが筆者は「関心や意欲」と「行動」は全く別の問題だと考えています。関心があっても、家庭や仕事の都合で参加できない人も多いのではないでしょうか。その人達は本当に防災に、無関心で行動力がないのでしょうか。他に原因はないのでしょうか。地域防災実践で課題を感じたら、その課題の原因が何かを冷静に考えてみることも必要です。

 

4.防災教育実践のススメ

4.1 防災教育の「目的」と「目標」を整理してみる

防災教育を実践するうえでぜひ、一度考えていただきたい、整理していただきたい言葉があります。それは「目的」と「目標」です。

手引きでは防災教育の「目的」を、2.3.1で示したように『地域の防災力を強化する』こととしています。「目的」とはつまり「何のために」という到達点です。

防災教育の目的は「いのちを守る」ことではないのか、と思われるかもしれませんが、「(防災教育を受けた人が)いのちを守れるようになる」だけでは、その人自身も、地域も、災害を乗り越えることはできません。家族や友人のいのちはもちろん、経済的なこと、避難生活、学校や事業所の活動も守られることも重要です。ですが、それら全てを「自分で守れるようになれ」というのは現実には困難です。

学校、家庭、地域、そして社会全体で、ひとりひとりがそれぞれの形で「いのちを守る」ことが必要になります。また「いのち」を守った後は、備蓄品等を活用し、避難生活を乗り越え、復旧・復興へと歩みださねばなりません。「いのち」だけでなく生活や人生を守ることもまた、防災教育においては重要な学習テーマです。その到達点、達成が『地域の防災力を強化する』という目的になります。「いのちを守る」のは、目的を達成するためには欠かすことのできない ”標” のひとつ、つまり目標ということになります。

筆者は防災教育の”目標”として「いのち(生命)=Life」、「生活=Livelihood」、
「人生=Lives」、それぞれ英語の頭文字をとって『3つのLを守る』ことが重要である」と説明しています。

ぜひ学校・家庭・地域で防災教育を実践される際は、学習者が理解しやすいよう、目標と目的を整理して取り組んでいただければと思います。

 

4.2 短時間で実践可能な小中連携の防災授業計画(例)

 神奈川県内市区町村(海沿いで山間部や観光地もある)の教員研究会で作成した、小中連携による短時間で実践可能な防災授業計画例をご紹介します(下図)。小学校6年間、中学校3年間に分けて、段階的に必要最低限のことを学べるよう整理しています。

 避難訓練の前後やホームルームなど、15分~程度で実施が可能な内容を中心に構成しています。それぞれに指導案も作成し、実施する教員の負担を軽減しました。まず安全行動などの習得を徹底し、細かなメカニズムや判断を伴う内容の学習は高学年以降を中心にしています。一度に色々教えるのではなく、児童生徒が過去に学習した内容を少しずつ振り返り、確認しながらより詳しい内容へと踏み込んでいくことで、学びの定着を促します。

 

4.3 地域の防災力を高めるために…

 災害からいのちを守るために学ばなければならないこと、できるようにならなければならないことは数多くありますが、まずは各学校各地域において、小学校低学年で想定されるような基礎知識(例:地震発生や津波想定時の安全行動等)の理解が学校・家庭・地域において徹底されているかどうかを、ご確認いただきたいと思います。

充分な授業時間を確保することが難しい、防災(教育)について専門的な知識を学ぶ機会も限られている、そのような状況だからこそ、シェイクアウト訓練に代表される「必要最低限の防災教育(訓練)」が求められると考えています。手引きには、様々な事例やプログラムも掲載されています。皆さんの地域にとって参考になるポイントや資料があるはずです。また、手引きはすべて英訳されており、英語版をダウンロードすることもできます。2015年3月に仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」において広く国内外に対して発信されており、国や地域を越えた応用が可能であることが示されています。

災害から児童生徒のいのちを守るために必要なのは、皆さんが実践した、あるいはこれから実施する『防災教育』かもしれません。それがどんなに単純な内容であったとしても、例え1回しかできず継続できなかったとしても、その1回がたくさんの人を守ることにつながるかもしれません。

学校・家庭・地域における防災教育実践は、地域の防災力に欠かせない手段のひとつです。手引きを参考に、ひとりでも多くの方が、ひとつでも多くの地域で、防災教育が実践されることを願っています。(2017年6月,筆者)

第29回 【教材あり】公務員志望学生向け防災・災害ボランティア入門講座

【サマリー】
東北地方太平洋沖地震をきっかけとして、災害救援や復興支援に関わる大学生が増えています。各大学による支援や、学生団体での活動も積極的に行われるようになっています。活動経験を活かしたい、地域の防災活動にも貢献したい、という学生や公務員を志望する学生向けの講座を行いましたので、本記事ではその一部をご紹介させていただきます。掲載内容についてのご意見やご要望、各種教材を使った研修等については「お問い合わせフォーム」よりお願いします。


本記事は2016年11月16日に中央大学多摩キャンパスで実施された講座のフォローアップ記事として作成しました。当日の講義内容についての概要をまとめています。

なお、文中記載の法制度に関する説明は、資料作成時点の内容となります。改正等により内容が変更となっている場合がありますことをご了承ください。

 

講座概要

講座は90分という限られた時間の中で3つのパートに分かれて行われました。以下は中央大学ホームページからの引用です。

◎講義1 「防災ボランティアに役立つ!自助・共助・公助のキホン
講師: 宮崎 賢哉 氏 (防災教育普及協会) ※弊会事務局主任を兼務
◎講義2 「災害ボランティアに役立つ!被災された方の生活再建支援」
講師: 高須 大紀 氏 (災害救援ボランティア推進委員会)
◎講義3 「災害時における公務員の役割~現場の声から」
講師: 吉田 敦紀 氏 (日野市防災安全課)

本記事では筆者が担当した部分について記載します。

 

講座資料

講座で配布・使用した資料は以下のとおりです。それぞれ公開されているサイトへのリンクを設定していますので、クリックするとブラウザで表示もしくはダウンロードができます。

 

講義「自助・共助・公助のキホン」

当日の講義はパワーポイントを使用せず、レジュメと板書にて行いました。

 

天災は忘れた頃に???

皆さんは寺田寅彦という方を知っていますか。戦前の物理学者であり、防災に関する様々な教訓、言葉を残していますが、特に有名な言葉(とされる)のひとつが『天災は忘れた頃にやってくる』というものです。寺田寅彦は1935年に亡くなっていますが、この事実と言葉は無関係ではありません。

人間は非常に忘れやすい生き物です。「エビングハウスの忘却曲線」という研究結果があります。人間が何かを一度覚えてから、もう一度思い出して覚え直す場合、時間が立てば立つほど難しくなるというものです。特にその覚える内容が(その人にとって)無意味な記号や数字であったり、接する機会が少ない情報である場合、覚え続けることも、思い出すことも難しくなります。

災害やその教訓を「自分にとって関係のあること」「身近なこと」として考えており、かつ「頻繁に接する」ような人は「天災を忘れる」ことはないかもしれませんが、多くの人にとってはそうではありません。正しい知識や教訓がテレビやインターネット、SNSがなかった時代、伝え続けること、記憶されることの難しさを寺田寅彦は忠告も兼ねて「天災は忘れた頃にやってくる」と表現したのかもしれません。

new_161116_1_31052575745_o (講義の様子)

 

忘れる前にやってきていた"巨大地震"、戦争の怖さ

1940年台初頭、1,000名以上の方がなくなる巨大地震が4年連続で発生していました。1943年の鳥取地震、1944年の昭和東南海地震、1945年の三河地震、1946年の昭和南海地震です。もし寺田寅彦が存命であれば「天災は忘れる"前"にやってくる」に変わっていたかもしないと思うほどです。ではその「巨大地震が連続する」という事実に対する教訓が広く後世に伝えられているかというとそうではありません。ある事情が詳細な記録、教訓が伝えられることを阻害してしまったからです。その事情が『戦争』です。

戦時中の報道管制や戦後の様々な混乱の中に埋もれてしまった情報、記録、教訓。つまり、戦争は人の生命や生活を奪うだけでなく、災害の教訓や記録さえも奪ってしまう恐ろしいものです。こうしたことからも災害対応や防災対策は単なる「教訓」として語り継ぐ、自主的・応急的な活動として取り組まれるだけではなく、明文化・形式化された「法制度」の一部に組み込まれていかなければならないということが分かります。

 

自助・共助・公助の考え方を理解する

具体的な法制度の話に入る前に、日本国民にとって重要な「知恵」のひとつである『自助・共助・公助』についてご紹介します。それぞれの言葉の意味は読んで字のごとくですが『まずは自分の身や家族の安全は自分たちでまもり(自助)、隣近所や地域で助け合い(共助)、公の支援を待つ(公助)』という考え方です。

この考え方をより分かりやすく理解していただくために、講座では簡単なゲームを行いました。筆者が開発した演習プログラム『Disaster-Information&Communication-Exercise:災害情報収集伝達とコミュニケーション演習』の概念を応用・簡略化した名付けて『自助・共助・公助体験トランプゲーム』です。

 

【教材】自助・共助・公助体験トランプゲーム

ルールは非常にシンプルです。人数としては5~6人から5~60人くらいまでが目安です。本記事では30名~40名程度で6班編成、学校の授業等を想定したルールを記載します。トランプの数を増やせば、より多くの人が同時に体験することができます。

但し、このゲームにおけるトランプは災害による『被害』や『復旧復興の過程』を示していますので、増えれば増えるほど大変になります。それも実際の災害と同様ですから、ハードな設定をご希望の方は倍くらいの数でやってみると良いでしょう。指導用スライドを『Slide Share』で公開していますので、必要に応じて指導の際にご利用ください。

 

事前準備

トランプ × 5箱(100円ショップので充分)
・トランプは全ての箱の中身を出し、5箱分をシャッフルします。
・その後、ランダムに53枚ずつ(各マーク13枚の計52枚+ジョーカー1枚)で箱に入れます。
・各箱から1枚ずつ適当に抜いておきます。これだけで準備完了です。

 

当日の進行とルール説明

(1)班編成する

・箱数+1でつくる(今回は6班)、1班人数は大体同じ人数にします。
・1つの班は『行政職員』役に指定します。
・他の班は『住民』役です。トランプを箱のまま1班1箱渡してください。

 

(2)ルールを説明する
・ルールはひとつ。『カードを指定された順番に戻す』ことです。
・混乱する状況を整理し、足りないカード、余るカードを調整し、元に戻していく作業を「被災から復旧・復興する過程」としてイメージします。
・指定された順番とは『スペードのA.K.Q.J.10…2→ハートのA.K.Q.J.10…2→ダイヤ、クラブの2』の順番です。分かりにくいので上記スライドの8ページ目をご覧ください
・足りないカード(事前に5枚抜いたカード)はジョーカーで代用します。
・ジョーカーやカードは『全てバラバラな状態=被災直後の混乱状況』です。
・『行政職員』役だけが「会場全体へのアナウンス=防災無線や広報車」ができます。
・『住民』役は、他班への行き来や会話は自由ですが大声での指示はできません。
・指示や全体の情報が欲しいときは『行政職員』役に頼むしかありません。

 

(3)制限時間を示してスタート
 
・制限時間は 10分間 です。
・この時点で参加者がイマイチ理解できていなくてもかまいません。
・とにかく「カードを指示通りの形に戻して持ってくる」よう指示してください。

 

(4)終了とまとめ
・全てのトランプが回収される、もしくはタイムアップになったら終了です。
・以下のような事後指導をすることで「自助・共助・公助」の大切さを感じてもらいます。

 

ゲームの特徴と指導ポイント

このゲームのポイントは『行政職員』役の動きです。行政職員役はカードがありませんから、直後に何をするかでその後の対応が変わります。ただ、災害時にどこでどんな被害が出ているか、つまりどこの班にどのカードがあるか分からないという点では、住民と同じなのです。従って住民がいきなり「なんとかしてくれ」と言ってきたとしても、行政職員役も状況が分からずどうすることもできないのです。

この状況と作業が『発災初期の状況、行政機能の低下』を示しています。

 

適切に対応するためには情報が必要ですが、その情報は『住民』役が自宅や周囲の被害を確認する、つまり手元のカードの過不足を確認することによって得られます。もしくは『行政職員』自ら地域に出て情報を集める、つまり各班に出向いてカードの情報を集めることが必要になります。

この状況と作業が『自助、まずは身近で情報収集と応急対応』の必要性と役割を示しています。

 

また、カードの過不足の調整を全体でやろうとすると混乱します。例えば「スペードの8はないか」と住民が探し回ったとします。3つの班をまわっても見つからないこともあります。なぜならカードはランダムですから、「隣の班がスペードの8を5枚持ってた」という状況もあり得るのです。こうした状況では、やたらに動き回るのではなく、隣近所との助け合う、つまり隣接する班と情報共有することが効率的です。

この状況と作業が『共助、隣近所や地域の情報共有・助け合い』の必要性を示しています。

 

隣の班と調整しても過不足があれば他の班にもカードを提供したり、受け取ったりしなければなりませんが、繰り返し述べているように、どのカードをどの班が多く持っているか、足りないかは分かりません。そこで重要になるのが『行政職員』役です。余ったカードや足りないカードの情報を行政職員役が把握できれば、全体にアナウンスをかけることで飛躍的に調整スピードが上がります。例えば『●●班にスペードの8がないので▼▼班のスペードの8を●●班に届けてください』という指示を出せば確実にカードを揃えていくことができます。

new_161116_2_31052576105_o (トランプゲームの様子)

『行政職員』役に情報を提供する流れは、被災後の公的支援を受けるための様々な手続きをイメージしています。つまり「わが家(班)でこんな被害が出たから支援して欲しい」と伝えることです。ただ、その情報を伝えたからといってすぐに対応してもらえるとは限りません。

 

ゲームでは「分かりました、すぐにやります」でも構わないのですが、実際は大変な時間がかかります。そこで必要になるのが、実際に支援を受けるために必要な「被害を受けていることを証明する」書類です。つまり、り災証明書や被災証明書の発行なのです。 この状況と作業が『公助、被災状況を確認してからの対応と、支援の手続き』の必要性と役割を示しています。

 

カードをスムーズに整理するためには全員の協力が必要です。『行政職員』役にとても強力なリーダーがいて、徹底的に指示を出したとしても、実際の整理作業にあたるのは参加者1人1人なのです。『住民』が非協力的だったり、指示を理解しなかったりしたら、作業は遅れてしまい時間内に完成できません。逆に1人1人が自分のこととして、自助、共助、あるいは公助の役割を理解して望めば時間内に完成させることは難しくありません。 事前指導と事後指導を含めても20分程度でできますので、防災講座や研修会のアイスブレイクとして実施していただくのもよろしいかと思います。

 

災害救助法について

ここからは関係法制度の説明ですが「法律や制度なんて面倒くさい、そんなの知らなくても何とかなる」と思われるかもしれません。ただ、前述したように法律や制度とは過去の災害の教訓や知見が集約された重要な「財産」なのです。何より公務員・行政機関は法令を遵守することが前提ですから、あらすじだけでも理解しておいて損はありません。 「災害救助」とありますが、被災地に必要な救助とは一体何でしょうか。法律上は10種類が定義されています。

 

ポイント:救助の種類

① 避難所、応急仮設住宅の設置
② 食品、飲料水の給与
③ 被服、寝具等の給与
④ 医療、助産
⑤ 被災者の救出
⑥ 住宅の応急修理
⑦ 学用品の給与
⑧ 埋 葬
⑨ 死体の捜索及び処理
⑩ 住居又はその周辺の土石等の障害物の除去

また、これらの救助を行うにあたっての原則があります。『平等・必要即応・現物給付・現在地救助・職権救助』の5原則です。それぞれについての細かな解説は本記事では割愛しますが、最初の原則『平等』について少し補足しておきましょう。

 

ポイント:平等と公平の違い

『平等』と『公平』の違いとは何でしょうか。平等とは「全員が同じ」救助・支援が受けられることです。法律上、お金や権威のある無しで救助・支援に差があってはいけないという考え方です。ただ、筆者も経験がありますが「平等にはできない場面」も存在します。

避難所で水を配布しようとしたら足りないことがわかった。でも配給の列には1歳半の乳幼児を連れたお腹の大きいお母さんがいる。「平等」に配ったら列の後方に並ぶそのお母さんに水は渡らない。「平等」にならないから水の配布を中止すべきか。難しい状況です。

例えば、「現在、水が不足しています。列に妊産婦さんや乳幼児をお連れの方がいれば優先します」というルールをアナウンスをしたとします。「平等」ではありませんが「妊産婦や乳幼児には水が必要であり、そのルールを他の人も守っている」ということが徹底されれば、列に並ぶ人も納得できます。それがルール下における『公平』という考え方です。嘘偽りでもらおうとする人がいるかもしれませんが…それは話が逸れるので別の機会とさせてください。

 

ポイント:救助に係る費用と柔軟な判断

平等にせよ公平にせよ救助を行うためにかかる費用があります。もし都道府県や市区町村が「お金がないから救助できません」となってしまったら大変です。都道府県が支弁する救助費用が一定額以上になった場合は税収に応じて国が負担します。 お金が発生する以上はいろいろな基準が必要です。限られた財源を効果的に使わなければならないわけですが、かといって杓子定規に判断するのも考えものです。

そこで、救助法の適用基準や各種の支援は柔軟な判断が適用されるケースもあります。 広域避難者(被災都道府県から避難して他の都道府県に避難・居住する方)をどう支援するか、その経費はどうなるか。避難指示がなく自主的な避難であったら?仮設住宅ではなく民間の施設を借り上げる「みなし仮設」の予算は?帰宅困難者に救援物資を提供した民間施設の支出はどうなる? 防災担当部署だけでなく、土木建築・道路整備、環境、福祉など様々な部署が関わる課題です。本記事では細かく説明しませんが、講座である程度紹介しています。

 

災害対策基本法について

災害救助法の後に定められたのが災害対策基本法です。そのきっかけとなった災害が『伊勢湾台風』です。 伊勢湾台風は東海地方を中心に県をまたがって大きな被害を出しました。非常に多くの市町村に災害救助法が適用されましたが、市町村・県を越えた災害ということで、事務処理その他はじめ様々な対応に課題が出ました。 そうした教訓から、平時の防災対策や国・都道府県・市区町村の役割を明確にしておくために定められたのが災害対策基本法です。日本の防災対策の核となる法律です。国家・地方、消防警察自衛隊、いずれの公務に携わりたいと思っている方もぜひ一読していただきたい法律です。

 

ポイント:住民の責務とボランティアとの連携

災害対策基本法もいろいろと紹介したいことがたくさんあるのですが、本記事では住民の責務とボランティアとの連携について触れます。「防災は誰の責任か」と考えたとき、実は「住民の責務」ということが定められています。それは「自ら災害に備え、自発的に訓練に参加すること」です。法律上の責務として明記されているのですから、防災の責任の一部は私たち国民ひとりひとりにあるのです。

もちろん、国や都道府県、市区町村は防災計画を定め推進していかなければならないことも定められていますが「何でもかんでも行政の責任だ」というわけではないことが分かります。そのことは前述した「自助・共助・公助体験トランプゲーム」の部分でもご理解いただけているかと思います。 『自助・共助』の概念として比較的新しいのがボランティアとの連携です。第五条の三に以下のような文面があります。

 

  • (国及び地方公共団体とボランティアとの連携) 第五条の三 国及び地方公共団体は、ボランティアによる防災活動が災害時において果たす役割の重要性に鑑み、その自主性を尊重しつつ、ボランティアとの連携に努めなければならない。

 

努めなければならない、なので努力義務ですが行政とボランティアの連携が明文化されたということは、防災・災害ボランティアに関わる者にとっては大きな前進なのです。学生団体などで日頃から地域で活動している皆さんは、その活動が法律上も定められた重要な活動であることを知ってほしいと思います。

 

被災者生活再建支援制度について

筆者が勝手に「防災3法」と呼んでいる最後の1つが『被災者生活再建支援法』です。これは1995年の阪神・淡路大震災をきっかけに生まれた法制度です。自宅等に被害を受けてしまった方を支援する国の仕組みとして生まれました。被災された方の「ゴール(目指すところ)」は一言では表せませんが、重要になるのが「生活再建」という言葉です。文字どおり「生活」が「再建」できたと感じられる、思える状態です。

 

ポイント:生活再建に必要なこと

では具体的に何がどうなったら「生活」が「再建」できたと感じられるのでしょうか。阪神・淡路大震災において行われた調査では『すまい』と『人と人とのつながり』が重要であるという結果が出ています。つまり、仮設住宅など「自分のすまいとして考えにくい」状況にいる間や「人と人とのつながりが以前のようになれない」状況では、"災害は続いている"と考えられるということです。 「すまい」の再建にはどうしても時間とお金がかかります。だからこそ『公助』、災害救助法や被災者生活再建支援法に基づく公的な支援が必要です。

ですが、「人と人とのつながり」は、私たち一人一人の行動でより良いものにしていくことができます。むしろそれは法律や制度で定めたからといって、良くなるものではないのです。 大学が地域と関わるボランティア活動はもちろん、自らが被災してしまったときも、あるいはどこかに支援にいくときも「人と人とのつながり」をつくることが重要だということが、法制度の意味を含めてご理解いただけたでしょうか。

 

講義まとめ

筆者は法制度の専門家でもなければ公務員でもありません。ですが、阪神・淡路大震災から始まり、様々な被災地支援や復興支援活動に携わるなかで経験してきた現地の課題や教訓が、法制度の改正によって少しずつ良くなっていることを感じています。 まだまだ課題はあるかもしれませんが、法律や制度は人を縛り罰する部分もある以上に、人を守り、助けてくれるものでもあるのです。

特に本記事で紹介した3つの法律は先人の教訓と知恵が盛り込まれており、何よりも被災された方、災害の犠牲となった方、その遺族の方の声なき声が含まれたとても意味深い法律だと思っています。 もし公務員を志望される学生さんが本記事をご覧になっていただけているようでしたら、皆さんが公務員となったとき、もし災害が起きたらぜひそのことを思い出してください。部署や仕事に関係なく、何かできることがあるはずです。

長文最後までお読みいただきありがとうございました。

 


【筆者】※「防災ミニ講座」の内容は筆者の見解であり、組織を代表するものではありません。
宮﨑賢哉(社会福祉士)
 災害救援ボランティア推進委員会主任/(一社)防災教育普及協会事務局長
 (公財)日本法制学会防災福祉グループ長

在学中からセーフティリーダーとして被災地支援活動に参加。2005年(公財)日本法制学会入社。大学での災害救援ボランティア講座や防災教育を担当。防災教育コンサルタントとして都立公園運営管理や、社会福祉士としての活動にも取り組む。

第28回 気軽に楽しめる防災教育教材、防災ゲームの一覧

[ お知らせ ]

本記事はお問い合わせの増加に伴い、2018年12月より寄稿元である「一般社団法人防災教育普及協会」へ移行しました。詳しくは下記の記事をご覧ください。

http://www.bousai-edu.jp/info/kyouzai-list/

第27回【教材あり】災害VC運営訓練・ボランティア対応ロールプレイ

【お詫び】本記事中の資料ダウンロードリンクに不備があり、ダウンロードができない状態にありました。現在は修正を完了しております。クリックしてからダウンロードまでしばらく時間がかかりますので、ご注意ください。

 

【サマリー】
社会福祉協議会等が開設・運営する災害ボランティアセンター(VC)は、被災地にとって欠かすことのできない組織です。各地区の社会福祉協議会で訓練が行われていますが、マニュアルや様式が整備できていない、実践的な訓練に取り組めていない、ということころもあるようです。本記事・教材ではどんな地域でもある程度柔軟に対応できる、訓練用教材と災害VCの基本についてご紹介します。

 


1 災害ボランティアセンター(VC)とは

 

災害ボランティアセンター(以下「災害VC」)とは、大規模災害が発生した際に、被災した地域・住民を支援しようと駆けつけるボランティアの力を有効に活かすために、支援を必要とする人(活動先)と活動を希望する人(活動者、ボランティア等)をコーディネートする役割や活動中の安全衛生管理などを担い、被災地域の復旧・復興支援に取り組む組織のことです。常設(災害が起きる前から)されている地域もありますが、ほとんどは災害が発生した後に、地域の福祉活動に取り組む社会福祉協議会(以下「社協」)等により、自治体との協定に基づき開設されます。

 

注意しなければいけないのは「ボランティアセンター(市民活動センター等ともいう)」は常設されていることが多い、ということです。同じ「ボランティアセンター」でも「災害ボランティアセンター」とは役割が異なります。ほとんどは社協の中で運営されていますが、独自に設置されている場合もあります。地域のボランティア活動全般(災害ボランティアも含めて)を「ボランティアセンター」もしくは類似の組織が担うことが多いです。一般的に略して「ボラセン」と言っています。より詳しく知りたい方は、最寄りの市区町村社協や"ボラセン"を調べて、お問い合わせください。参考までに、筆者が10年以上お付き合いのある、豊島区民社協さんのリンクを掲載しておきます。

豊島区民社会福祉協議会
豊島ボランティアセンター
災害ボランティア登録者大募集!

 

1.1 関係機関の整理

まず災害VCに関わる機関や団体を整理しておきましょう。

 

▼都道府県(行政)
都道府県は危機管理・防災課等が「災害対策本部」を立ち上げ、ボランティア(市民活動)や医療福祉、教育等に関わる各部署が災害対策本部と共に災害対応にあたります。都道府県の枠を超えるような大規模災害時の広域連携調整などで関わることが多いでしょう。首長の判断や発言が災害VC運営や広域連携に大きな影響を与えることもあります。都道府県社協と共に平時から連携しておくことが求められます。

 

▼都道府県社協
県域での災害VC(災害ボランティア本部等ともいう)を開設・運営したり、都道府県や他県、市区町村社協による災害VCの連絡調整を行います。よく勘違いされるのが「都道府県社協は市区町村社協の上部組織=本社と支社、"上から落とせば"=比喩的表現です=いいだろう」といった考え方です。あくまで市区町村のことは市区町村のことであり、都道府県社協の指示命令に従うといった関係ではありません。

 

▼市区町村(行政)
市区町村は都道府県と同様、災害対策本部や関係部署による対応を行います。市区町村の社協や関係組織と地域防災計画等に基づく協定を締結し、災害VCの開設・運営に関わります。市区町村社協の災害VCマニュアルでは「市区町村からの要請を受けて」開設する、という項目が含まれていることが多いです。

 

▼市区町村社協
災害VCの実務的な運営を担います。市区町村をまたがる被害が出ることもあるため、近隣社協との連絡調整や、災害VCの設置場所と被災場所の中継地点となる「サテライトセンター」の運営も行います。但し市区町村社協の人員では到底対応しきれないため、県域を超えた社協職員やボランティアの応援を受けながら対応します。

 

▼各種連絡会・協議会、職能団体、広域ネットワーク等
県域、市区町村で「連絡会・協議会」を設置し、連携体制を整えている地域もあります。社会福祉士会や介護福祉士会などの職能団体や、専門NPO・NGO等による広域ネットワーク組織等も災害VC運営に関わることがあります。

 

1.2 迅速かつ適切な支援のための広域連携

災害VCは社協職員や、上記の関係団体が連携して開設・運営されます。ですが、災害によって被災地の社協及び職員が被災することもあります。そうした場合に備えて、関係団体などによる広域連携による職員派遣などの支援も行われます。被災地の社協に全国から他地域の社協職員やボランティア等が駆けつけ、災害VCの運営支援などに携わっています。

その経験を全国的な支援体制として整えよう、という動きもあります。課題は様々ですが、経験豊富なNPO・NGOや内閣府(防災担当)も関わりながら、そのような体制が検討されています。災害VCは被災者支援の中核的な役割を担い、行政対応が行き届かない細やかな生活上のニーズに対応していくうえで重要な組織だと認識されている、と言えます。

だからこそ「外部からの支援をどう受け入れるか」という『受援(じゅえん)』の考え方も重要になるですが…これはまた別の機会に。

 

1.3 設置・立ち上げ・運営・閉所(移行)について

細かいことですが大事なポイントです。

災害VCは原則として被災地の社協が『設置』します。『設置』とは「私たち(都道府県または市区町村あるいは両方)は◯◯(場所)に災害VCを開設しますよ!」と公に発表することです。災害VCを立ち上げることと、その場所が決められたという状況です。『設置』の判断は各社協のマニュアルに定められていますが、原則として自治体の要請に基づく社協内の災害対策本部(社協の会長、役員、事務局長等で構成される。自治体の災害対策本部とは異なります)の判断で行われます。概ね、災害発生から24時間以内に判断されます。

『設置』は立ち上げと場所が決まっただけで、中身は空っぽの状態です。次に『立ち上げ』に移ります。『立ち上げ』の段階で、指定された場所への人員配置(職員や支援者のスケジューリング・労務管理等)や資機材搬入などを行います。災害VCが機能できる状態にします。概ね『設置』から72時間以内に『立ち上げ』が行われます。

次に『運営』です。『立ち上げ』された災害VCを、閉所または移行するまで継続していくこです。次項で示すような役割を担いながら、被災地・被災された方の生活支援を中心に活動します。

最後が『閉所(移行)』です。災害VCはあくまで災害によって被災された方の生活支援が中心です。そして、その支援が"通常の社会福祉協議会の福祉的業務"や地域住民同士の互助で行えるようになり内外からのボランティアの必要性がなくなる(あるいは相対的にきわめて小さくなる)ようになれば、閉所・移行の時期です。『閉所』という表現だと「もう何もしてもらえないのか」という印象をあたえることもありますので、「復興支援センター」というように名称を変えて『移行』する場合もありますし、社協や常設のボランティアセンターの中に機能が取り込まれる場合もあります。

 

1.4 主な役割

災害VCの主な役割は以下の5つが一般的です。他にもいろいろな考え方がありますが、まずこの5つをなるべく早急に行える態勢づくりが重要と言えます。

(1) 被災された方、地域の現状をできるだけ細かく把握・整理すること
(2) 災害ボランティアに関する情報収集・発信
(3) 被災された方からの要望、ボランティア派遣依頼(ニーズともいう)の把握
(4) ボランティアコーディネート(調整)機能の発揮
(5) 行政や関係団体・機関との連絡調整

 

2 運営に係る主要業務7分類

ここで示す各班の名称、業務は一例です。詳しくは最寄りの社会福祉協議会、ボランティアセンターで作成されている、災害ボランティアセンターのマニュアル等をご参照ください。
本記事では主要な業務を7つの「班」で編成しており、関連業務を「係」として分類しています。これは組織的な危機管理・対応においてかねてから国内でも導入が必要とされているICS[Incident Command System,米国で生まれた現場指揮システム、警察・消防・軍など異なる組織が連携して活動できるよう、命令系統や管理方法が標準化される]において、指揮者・管理者が管理できる部下の人数が3人~7人と想定されていること、概ね5人程度が最善であることなどを考慮しています。

 

2.1 センター長、副センター長(班長会)

センター長、副センター長及び班長会(スタッフミーティング)は、災害VC全体の統括や方針、意思決定が主な役割です。基本的には各班長からの報告・連絡・相談をもとに決めていきますが、各班長からの情報は他班に関わることもあります。センター長や副センター長の一存では解決できること、できないことがありますので、必要に応じて班長会を臨時で開く、行政や関係団体との会議を開くことも重要です。いざというときに体調を崩したり、相談したいときに見つからなかったりすると大変です。どっしり構えてもらい、必要な時にすぐ対応していただけることが重要です。

 

2.2 総務班

▼総務・会計係
災害VCはボランティアと被災者(ニーズ)をつなぐ、という役割を果たすために、それぞれへの対応だけでなく組織的・継続的運営のための様々な事務処理が発生します。前述した関係団体などとの連絡調整に係る文書作成や連絡調整、財務会計に関する事務などです。業務内容が内容だけに、原則として社協職員が担うことが多いようです。財政や会計に関する専門的な知識がある、活動経験が豊富と(自称する)いう場合ても、まったく見ず知らずの外部ボランティアなどに財務会計や重要な連絡調整を任せるはリスクが大きすぎます。職員が担えるよう、日頃の教育訓練が求められる役割です。

 

▼情報・広報係
被災地の情報収集やチラシ、ホームページやSNSを使った情報発信・広報などを行います。昨今ではホームページやSNSを調べて被災地に行くことが当たり前になっています。ホームページやSNSへの記載内容やタイミング次第で、その日その週末のボランティア数が大きく増減することがありますので、災害VCの広報周知を考えるトレーニング・プログラムがあるほどです。また、地元メディアとのお付き合いも重要です。ボランティアや何らかの支援が必要な場合、個人レベルでメディアに情報が届くと後でトラブルになることもありますが、きちんと災害VCや災害対策本部を経由して情報共有しておくことが効果的な支援につながります。初期は大手メディアが入ることが多いかもしれませんが、最終的な住民支援の力になるのは地元メディアです。情報・広報係の大切なパートナーと言えるでしょう。

 

▼総合受付係
災害VCにはひっきりなしに各方面から電話がかかってくることもあり、専属の半編成をしたほうがスムーズです。行政・社協等の本部からの情報、ボランティアや外部団体からの問い合わせ、被災された住民からの連絡など様々です。速やかに対応しながらも、重要な情報はきちんと記録・伝達することが求められます。この時点で各班に情報をまわしても具体的な対応は難しいので、確認が必要なことは総合受付から各班へ確認し、回答するようにします。規模が大きい場合は総務班から独立させる方法もあります。

 

2.3 ニーズ(ボランティア依頼)班

▼ ニーズ係
総合受付からのニーズ依頼を精査、必要に応じて確認してニーズ票を作成します。ボランティアに対する指示・連絡のベースとなるので、ニーズ票を分かりやすく具体的にする、関係する資機材や情報を整理しておくなどが求められます。

 

▼ 地図作成係
予め災害VCまたはサテライトセンターが担当するエリアの住宅地図をもとに、地図のベースを作成しておきます。ベースに記入するなどして、ニーズ票に添付する活動先地図などを作成します。近年は被災地でも電源・インターネット等の環境が整っている場合も多く、ボランティアもスマートフォンやタブレットを持参しているので、QRコードを作成したりナビを活用したりしています。ただ、それらが使えない方もいるのでアナログ地図の作成も重要です。

 

▼ 現地調査係
ニーズ票、地図を基に活動先の状況を調査します。ボランティア依頼が本当にボランティアで対応できる作業なのか、期間や人数、資機材、アクセス、依頼者の状況などを確認します。この確認がないとボランティアを派遣してもうまく活動できない、トラブルが起きるといったことが想定されます。このため「ボランティア依頼からボランティア派遣には2日以上かかる」場合もあることを念頭に置くことが必要です。

 

2.4 ボランティア受付班

個人、団体のボランティアの受付や登録作業、ボランティア保険天災コースの加入確認、名札作成、集計などを行います。時間によって業務量に差があり、一般的には朝の受付時がピークで、以降は集計作業などが中心となり、余裕があれば他班のサポートなどを行います。

 

2.5 コーディネート班

▼オリエンテーション係
ボランティアに対するオリエンテーション(ルールや流れ、注意事項の説明や各種案内等)を担当します。人数が少ない場合は他班・他係兼務でも良いのですが、ボランティアの人数が増えてくる(500人~1,000人以上/日など)と専属の人がいないと対応しきれなくなります。送り出しや迎えを兼務する場合もあります。一部のオリエンテーション(案内誘導や資料配布など)業務には地元の中高生が参加することも少なくありません。中高生から支援の希望があれば、こうした活動に取り組んでもらうことも効果的です。

 

▼コーディネート係
ボランティア受付の情報と、ニーズ(ボランティア依頼)の情報を元にコーディネート(調整)します。単純に「その日のボランティア:ニーズ」という関係だけでなく、都道府県域を超えた支援や長期的な支援、大人数の継続的な活動との調整なども含まれます。言葉で説明する分には簡単なのですが、実際にやろうと思うとかなり複雑で慎重な判断を迫られるケースがあります。負担も大きくなるので「デキる人」にだけ任せっぱなしにすると、いざというときのリスクが大きくなります。できるだけ複数人で手分けをしつつ協力して業務にあたります。専門的な知識や経験を備えた方もいますので、そうした方々の力を借りるのも有効です。
ただし、「専門的な経験がある」ことが優れたコーディネーターの要件とは限りません。「なんとなくテキパキ動いていくれる、地元の元気なおじちゃん・おばちゃん」といった方がコーディネーター的役割を果たしている場合も多々ありますし、経験豊富でもトラブルの原因になるようなコーディネーターがいる場合もあります。できるだけ、地元の方や社協職員中心で回せるような平時の教育訓練、組織化ができると良いでしょう。

 

▼マッチング・送り出し係
コーディネートが完了したものをボランティアに伝え、チーム編成やリーダーの指定、活動についての個別オリエンテーション、出発から報告までの流れの説明などを担当します。ある程度慣れているボランティアの方であれば、流れや注意事項などはわかっているので多少省略することもできますが、どこに何があるか分からない、次にどうしたらいいか迷ってしまう、といった初めての方が多い場面では重要な役割です。

 

2.6 資機材・車両管理班

ボランティアが使用する資機材や車両の管理をします。活動によっては資機材や車両の数が非常に多くなるので、ボランティア向けと災害VC運営向けは分けてください。災害VC内部の資機材や車両の管理は総務で管理すると、ボランティア用と混在しにくくなります。

 

2.7 安全衛生・救護班

ボランティアの安全衛生のため、消毒作業や案内周知を行います。資機材管理班と活動エリアが近くなります(戻ってきたボランティアの泥落としや消毒、各種消毒液や薬品関係の管理など)ので、必要に応じて資機材管理班と共に活動します。救護班はできるだけ分かりやすい場所に設置し、看護師や保健師など医療従事者や応急手当の知識がある方にご協力いただきます。また、いざというときのために近隣の医療機関や重篤な症状がある場合の緊急搬送方法なども検討しておきます。

 

3 ボランティア活動の流れ

一般的な災害VCにおけるボランティア活動の流れです(下記)。細かい点で違いはあるかもしれませんが、大筋は変わりません。「郷に入っては郷に従え」という言葉もありますが「絶対うちのやり方のほうが効率的だ、こうすべきだ」という意見は大事だと思いますが、原則はその地域のやり方に沿って行います。なぜなら、その地域・社協はその流れで訓練を続けている可能性があり、それを安易に変えれば関わる全ての人に影響するためです。

外部支援の方で、本人は改善に向けた善意なのですが「言うだけ言っていなくなってしまう」方もいます。
ですが被災地・地元社協の方は長距離走、しかもゴールが見えない長距離走です。これまで10km走ってきて、これから100kmかそれ以上、走るかもしれないと人に対して、100mしか走らないと分かっていて、あと10m走れば良い短距離走の人はどのような言葉をかけるべきでしょうか。
「なんでそんなゆっくり走ってるんだ!」とは、言いませんよね。

少し話がそれましたが…活動の流れや各種様式の扱いは地元の状況をくれぐれも尊重していただき、変更や修正はたとえそれが合理的な方法であったとしても、必要最小限に留めるようにしていただければと思います。

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(下記教材訓練様式_7)

 

4 災害VC訓練用プログラム教材「ボランティア対応ロールプレイ」

実際に災害VCの役割や各班業務を意識しながら行う訓練プログラムについてご紹介します。なお『ロールプレイ』とは、台本(ロールカードという場合もある)に定められた役割に従って演じるものです。今回ご紹介するのは「災害VCの運営スタッフ役」と「一般の個人ボランティア役」に分かれておこなうロールプレイのプログラムです。

 

4.1 教材ダウンロード

下記に教材資料集をzipファイルでアップロードしています。別途「解凍ソフト」が必要な場合があります(WIndows10などではダブルクリックするだけで開けます。うまく閲覧できない場合は個別にお問い合わせください。教材はすべて編集可能・再利用自由です。使用に際しての許可申請なども不要です。ご自由にお使いください。

▶ 【教材セットダウンロード】saigaivcrpg_siryou2016.zip
▶ 【アンケート結果ダウンロード】saigaivcrpg_kaitou2016.pdf

 

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詳細は上記資料集の中にある「参加者資料_1 ボランティア対応ロールプレイ説明資料」や「参加者資料_2 タイムテーブル等事務資料」を参考にしてください。

 

4.2  実施のようす

教材作成及び写真提供は都内社協様にご協力いただきました。

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5 まとめ

上記で紹介した教材・プログラムは、大きめの会議室が1つあればできますし、指導員なども必要ありません。実際に、最初は僕がご協力しますが、その後は各社協内部で研修を続けられているところもたくさんあります。すでにマニュアルがあって、訓練を続けられているところはそちらの参考にしても良いですし、これからマニュアルをつくる、あるいはまだ訓練を実際にやってみたことはない、というときはこちらのサンプルをそのまま使って練習しているのもよいでしょう。

社協職員の皆さま、関係団体の皆さまの教育訓練の一助となれば幸いです。

 


宮﨑 賢哉 / 災害救援ボランティア推進委員会主任、(一社)防災教育普及協会事務局長
 阪神・淡路大震災以降に被災各地で活動し、2002年にセーフティリーダー認定。学内で学生団体を設立し、災害支援や防災に取り組む。2004年(公財)日本法制学会(災害救援ボランティア推進委員会の運営法人)入社後は、経験を活かして大学での災害救援ボランティア講座や学生支援を担当。教育・福祉、公園指定管理など幅広く活動中。