防災ミニ講座

第9回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-後編-

第9回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-後編-

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士

災害救援ボランティア推進委員会 主任

【サマリー】

  防災教育は「教育」である以上、ある程度の指導計画や指導案が必要になります。なかなか具体的なイメージが作れず、苦心される先生方も多いかと思います。 そこで、ある中学校での具体的な防災教育を事例に、指導計画・指導案づくりについて考えたいと思います。

 前編では、まず防災教育の企画を考えてみます。

 中編で具体的な指導案づくり等について解説します。

 後編で評価、実務について説明します。

※文中でPDFファイルをダウンロードしていただきます。学校や職場のパソコンにより、ファイルダウンロードができない場合は事務局までお気軽にお問い合わせください。


本講の内容

はじめに

1 防災教育実施企画書をつくってみる(前編)

  (1)授業テーマはなんだろう?

  (2)学習者は誰だろう?

  (3)テーマの選択理由はなぜだろう?

  (4)学習目標はどうしよう?

  (5)前提条件はなんだろう?

2 課題分析をしてみる(中編)

  (1)~(4) 「卵焼きを焼けるようになる」授業を例に

  (5)課題分析図を書いてみる

3 学習指導案をつくる(中編)

  (1)教材

  (2)指導方法

  (3)指導過程

4 評価ワークシートをつくる(後編)

5 進行表をつくって他の教員(担当者)と共有する(後編)


4 評価ワークシートをつくる

(参考資料) 防災教育共通振り返りシート_130926v(Word形式)

中編までで、課題の整理や学習指導案の作成までご説明しました。後編では「授業の後」について触れていきます。

防災教育で最も難しいことのひとつが「評価」です。卵焼きづくりや、テストで数値化できるものであればよいのですが「命を守れるようになる」とか「助け合えるようになる」というのは、個人差もありますし、何より「授業でできたから、災害時にもできる」とは言い切ることができません。

授業はあくまで授業であって、災害時のような緊張感、恐怖、不安や焦りを再現することは難しいのが現実です。ですがそれは「評価できないなら評価しなくてもいい=やればいい」ということではありません。少なくとも「その防災教育が児童生徒にどのような変化を与えたか」を評価することはできます。

その一例として(参考資料)をご覧ください。

この振り返りシートでは、児童生徒に対し防災意識の変化や、行動意欲、助け合いの気持ちについて確認しています。小学校低学年~教職員・PTAまで、全く同じ評価軸で評価できるよう、設問も易しい表現を用いています。

仮に「命を守れるようになる」という学習目標を設定しても実際に命を守れるかは災害が起きなければ分かりません。ですが「命を守れるようになる」ためのきっかけが、授業に含まれており、それを児童生徒が学び取ってくれているかは、評価できるでしょう。

 

(1)何を確認・評価すればいいのか。

 

これはとても難しいことですが、筆者の場合はごくシンプルに、こう考えました。

「防災に対する関心・意欲に変化が見られたか」

「命を守れるようになったかどうか」は分かりませんが、少なくとも児童・生徒に対し防災教育を行った結果、防災に対する関心・意欲の変化を児童生徒本人が自覚できていなかったとしたら、適切な学習効果があったとは認められないでしょう。

※注意 : この場合、何らかの要因でもともと、関心・意欲が極めて高い児童生徒は例外です。

従って、何はともあれ「児童生徒が、防災教育を受けた結果、関心・意欲に何らかの変化が見られた」ということを、しっかりと数値化することが、防災教育のためには(継続するためには)まずは必要ではないか、と考えています。

 

(2)成果はあるのか。

(参考資料)140407_防災教育共通評価シート2013後期[クロス集計]

 

こちらの参考資料は、前述の振り返りシートを、小学校低学年~教員・PTAまで、高校生を中心とする3,272名に配付し、記入してもらった結果を整理したものです。実施した防災教育の内容は、講演・講話によるものから、体験学習まで様々ですが、概ね7割程度の児童生徒らに何らかの意識・意欲の肯定的変化が見られました。

小学校・中学校では評価が高く、高校生では評価が低くなっていますが、これは実施環境が影響しています(9月の暑い時期、全校生徒、体育館での講話)。もし、防災教育の成果を高めたければ、内容もさることながら、実施環境の調整が大変重要です。

環境が考慮されれば、児童生徒に対する防災教育は一定の学習成果(本人が変化を自覚できる)がある、と考えることができます。はじめての防災教育は難しいこともあるかと思いますが、教員・指導側が真剣に取り組めば、必ず児童生徒は応えてくれます。ぜひ、自信をもってチャレンジしていただければと思います。

 

5 進行表をつくって他の教員(担当者)と共有する(後編)

さて、評価まで考えたらあとは実施するのみ、です。一人で実施できる場合も、複数の教員・指導員が関わる場合も、具体的な進行表(指導案とは別に)を作成し、職員会議等で共有する一手間があると理想的です。一度、作成しておけば、異動になってしまったときも後任の方が継続してくれるかもしれません。教員・指導員に何かあったときも、誰かが代替してくれるかもしれません。

学校・地域全体で取り組む防災教育のために、最後の一手間を惜しまず、取り組んでいただければ幸いです。

(了)


前編・中編・後編に渡ってご紹介してきた「学校防災教育における学習計画・指導案づくり」も本回で最終回となります。今後も、各種防災教育の実践事例や教材等をご紹介させていただきますので、引き続きご覧いただければ幸いです。

お問い合わせは 03-6822-9900 まで

第8回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-中編-

第8回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-後編-

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士

災害救援ボランティア推進委員会 主任

【サマリー】

  防災教育は「教育」である以上、ある程度の指導計画や指導案が必要になります。なかなか具体的なイメージが作れず、苦心される先生方も多いかと思います。 そこで、ある中学校での具体的な防災教育を事例に、指導計画・指導案づくりについて考えたいと思います。

 前編では、まず防災教育の企画を考えてみます。

 中編で具体的な指導案づくり等について解説します。

 後編で評価、実務について説明します。

※文中でPDFファイルをダウンロードしていただきます。学校や職場のパソコンにより、ファイルダウンロードができない場合は事務局までお気軽にお問い合わせください。


本講の内容

はじめに

1 防災教育実施企画書をつくってみる(前編)

  (1)授業テーマはなんだろう?

  (2)学習者は誰だろう?

  (3)テーマの選択理由はなぜだろう?

  (4)学習目標はどうしよう?

  (5)前提条件はなんだろう?

2 課題分析をしてみる

  (1)~(4) 「卵焼きを焼けるようになる」授業を例に

  (5)課題分析図を書いてみる

3 学習指導案をつくる

  (1)教材

  (2)指導方法

  (3)指導過程

4 評価ワークシートをつくる

5 進行表をつくって他の教員(担当者)と共有する


 

2 課題分析をしてみる

(参考資料) 2_課題分析シート

前編では、防災教育における「学習目標」と「前提条件」を考えていただきました。

次に「課題分析」を行います。これはどういうことかというと、目標達成において、何が課題になりそうか、その順番はどうなるかを分析するということです。

例えば「卵焼きを作れるようになる」という学習目標を立てたとします。達成条件は卵焼きが作れることです。できれば、おいしく。前提条件として「卵焼きを食べたことがある(卵焼きがどんなものか知っている)」ということを設定したとします。さらに言えば「食べたことがある(知っている)けど、作った経験はない」としましょう。

この状況では、何が課題になるでしょうか。そして、それを授業でどう解決すべきでしょうか。もし僕が卵焼きづくりの授業をするとしたら、こんな感じになる、という例を挙げてみました。参考資料の3.課題分析図目標1.手順分析をお手元に見ながら確認してください。

※あくまで例ですので、卵嫌い・アレルギーの子がいる等の条件は除外します。

(1)そもそも「卵焼きを作る」イメージがわかない。必要性を感じない。という課題

まず「卵焼きを作る」ことのイメージが必要だな。遠足や運動会のお弁当に入っていた母親の手作りの卵焼きが嬉しかった、おいしかった話をしようかな。おばあちゃんに卵焼きの作り方を教わって一人暮らしの時に役立ったことのお話も。それと、料理本などからおいしそうな卵焼きの写真を見せて、料理の楽しさも伝わるといいな。

(2)イメージはわいたけど、どうすればいいか分からない。という課題

自分が卵焼きを作ったときの手順を説明して、塩を入れすぎてしょっぱくなった失敗例や、早く焼ける外側から少しずつ丸めていってうまくいった時の例を説明しよう。できれば写真や動画があったほうがわかりやすいかな。

(3)どうしたらいいかも分かったけど、自分にできるか分からない、不安。という課題

殻が入らないように卵を割る、空気を入れながら混ぜる、調味料を入れる、フライパンに油をひく、フライパンを温める・・・具体的な作業手順を示して、展示したり、資料で説明しよう。何か生徒は苦手な、できない作業はあるかな。あれば他の人に手伝ってもらってもいいからやってもらおう。

(4)作ってみたけど、おいしいかどうか分からない。という課題

実際に食べてみたり、食べ比べてみよう。おいしかった人は、どんな工夫をしたかな。まずかったら、何がいけなかったのかを考えさせよう。

・・・

これが課題分析の方法のひとつ「手順分析」の例です。参考資料にある階層分析については話が細かくなりますのでこちらでは割愛させていただきます。教えたいことを教えるために、何が課題になりそうか?それを順番にクリアしていくにはどうしたらいいか、を整理することで、学習指導案を作成する際の指導過程がより具体的に見えてきます。

(5)課題分析図を書いてみる

さて、それでは実際に書いてみましょう・・・といっても難しいかと思います。まずは、参考資料や上記の例をもとに、学習目標(生徒に教えたいこと)の課題は何かを整理してみてください。あなたが教えたいことを伝えるために、クリアしなければならない課題はなんでしょうか。学習目標、前提条件を意識しながら考えてみてください。

 

3 学習指導案を作る

(参考資料)3_学習指導案

ようやく学習指導案づくりに入ります。ここまでお付き合いいただいた方々であれば、さほど難しくはないかと思います。学習目標、前提条件を整理し、課題分析の流れから指導内容を作っていきます。

 (1)教材

防災教育には様々な教材があります。詳しくはまた別の機会にご紹介させていただきますが、まずは各地の教育委員会等で配付されている副読本などを活用すると良いかと思います。

 (2)指導方法

どのような流れで、何を目的にして行うのかを整理しておきます。ゲーム型式の教材を使用する場合は、使い方なども習熟しておく必要があります。また、生徒に話し合いをさせる場合の工夫などもありますが、このあたりは通常の授業での指導方法とさほど変わらないかと思います。

 (3)指導過程

2.でご紹介した課題分析を意識するようにします。手っ取り早く本論に入りたいところですが、生徒ひとりひとりの理解度には差があるかと思います。ひとつひとつ、確認しながら進めていくことが重要です。時間配分や生徒個別への注意点については、誰よりも先生方が詳しくご存じですので、ご経験を活かしていただくのが良いかと思います。外部の人間が指導に協力する場合は、この点をしっかりと先生と共有しておくことも重要です。

(後編に続く)


 

中編はここまでとなります。

学習指導案は授業の骨子となるものです。何より「形に残す」ことの重要性をお伝えしたいと思います。防災教育はご担当の先生だけがやればいいというものではありません。ご異動等で後任者に引き継ぐこともあるでしょうし、より良い教育のためにブラッシュアップすることも必要でしょう。

そのためには「何を目的とし、どのように指導したか」を常に意識しなければなりません。また、後編でご紹介する評価や他の教職員・管理職への説明においても重要な役割を果たします。

ぜひ、チャレンジしてみてください。

 

お問い合わせは 03-6822-9900 まで

第7回 学校防災教育における指導計画・指導案づくり-前編-

第7回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-前編-

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士

災害救援ボランティア推進委員会 主任

【サマリー】

 防災教育は「教育」である以上、ある程度の指導計画や指導案が必要になります。なかなか具体的なイメージが作れず、苦心される先生方も多いかと思います。そこで、ある中学校での具体的な防災教育を事例に、指導計画・指導案づくりについて考えたいと思います。前編では、まず防災教育の企画を考えてみます。後編で具体的な指導案づくり等に入ります。

※文中でPDFファイルをダウンロードしていただきます。学校や職場のパソコンにより、ファイルダウンロードができない場合は事務局までお気軽にお問い合わせください。


本講の内容

はじめに

1 防災教育実施企画書をつくってみる(前編)

  (1)授業テーマはなんだろう?

  (2)学習者は誰だろう?

  (3)テーマの選択理由はなぜだろう?

  (4)学習目標はどうしよう?

  (5)前提条件はなんだろう?

2 課題分析をしてみる(以下は後編にて)

  (1)課題分析図を書いてみる

3 学習指導案をつくる

  (1)教材

  (2)指導方法

  (3)指導過程

4 評価ワークシートをつくる

5 進行表をつくって他の教員(担当者)と共有する


 

はじめに

防災教育を考えるときに、3つのポイントがあります。

①何を知っている(できる)のか【前提条件】

・・・> 既に知っていることを教えても効果は低く、難しすぎることも同様です。

②何を教えたい(させたい)のか【学習目標】

・・・> 児童生徒を「成長させたい」ポイントをしぼります。

③それを知った(できた)のか【評価】

・・・> ②が達成できたかどうか、しっかり評価します。

指導計画や指導案をつくることで、①~③が見えてきます。最初は難しいかもしれません。ですが、きちんと計画をたてて行い、評価をした授業は必ず次につながります。本講を参考に、ぜひ一度チャレンジしてみてください。

 

Ⅰ 防災教育実施企画書をつくってみる

(参考ファイル) 1_防災教育実施企画書

防災教育全体のイメージ作りのために「防災教育実施企画書」をつくってみましょう。いくつかの項目に分けて順番に考えます。本講で紹介する企画書はあくまで一例ですので、それぞれの様式、やりやすい方法でつくってみてください。

 

(1)授業テーマはなんだろう?

まずは「授業テーマ」を考えてみましょう。これは学習目標にもつながりますが、抽象的でも構いません。例えば「命を守れる生徒になろう!」とか「助け合える●●生になる!」とかでもいいでしょう。できれば生徒や保護者など、誰にでもわかるようにシンプルでキャッチーな表現がいいと思います。まず生徒に伝えることになるので、授業者(教員、外部団体)が、一番伝えたいメッセージを込めるのがポイントです。

 

(2)学習者は誰だろう?

本講の資料は、実際にある中学校で実施した【全校生徒対象の防災講話+一年生対象の防災ゲーム】という授業の資料をベースにしています。従って学習者は【中学校全校生徒+中学校1年生】となります。これはイレギュラーなケースで基本的には1年生~3年生など、学年単位になるかと思います。

防災教育の実施時期も関係します。例えば5月~6月に実施する場合、1年生はほとんど小学生に近くなります。逆に年明け以降なら、中学校2年生とほぼ変わらないでしょう。このあたりの判断は、先生方がよくご理解されているかと思いますので、特に外部の方は先生にしっかり確認することが大切です。

 

(3)テーマの選択理由はなぜだろう?

授業者がテーマを選んだ理由を考えます。何か印象に残る話を聞いた、印象に残った出来事があったなど、授業テーマを設定するに至った理由が必ずあると思います。これは実際に授業を行う際に児童生徒に伝えることもあります。「●●ということがあったから、君たちに●●を教えたいんだ」と伝えることで、児童生徒も「なぜそれを学ぶ必要があるか」を整理しやすくなります。自分の想いをしっかりと指導計画に落とし込むために、難しいとは思いますが一度整理してみましょう。

 

(4)学習目標はどうしよう?

さて、一番の本題となるのが学習目標です。ここでのポイントは「なるべく具体的にする」ことです。「理解する」とか「わかる」というのも悪くはないのですが、何が、どうできたら「理解した」「わかった」と言えるのかを考える必要があります。例えば、参考ファイルでは

・災害時に中学生(自分)にできる(できそうな)ことを、その理由も含めて述べることができる。
・災害時を想定した問題を見て、状況を読み取り、自分なりの判断を示すことができる。

という2点を示しています。授業テーマが「助けられる側から助ける側になる」ということですので、実際そのようになるためにはまず「自分にできることをする」という行動が必要になります。従って「自分に何ができるか」を理由も含めて示せることが必要になると考え、学習目標として設定しました。また、自分にできることは災害時の様々な状況によって変化していきます。その変化する状況を読み取り、その中で自分がどのように判断し行動するかも重要ですので、これも学習目標として設定しました。

この2点をクリア(達成)した生徒なら「助けられる側から助ける側になる」ことができるだろう、と考えます。もちろん、絶対にそうなれるとは言い切れませんが、少なくとも自らの判断で行動できるひとつの基準になります。

 

(5)前提条件はなんだろう?

最後に「前提条件」を考えます。これは対象となる児童生徒が「現時点で何を理解しているか」を整理するために行う作業です。既に理解している内容(東日本大震災で津波が起きた、たくさんの方が亡くなった等)の指導を学習目標に設定しても、防災教育としての成果は限られてしまいます。従って、これは「知っている」という前提条件のもとでさらに付け加えたい知識や技能を教えることが大切です。

(後編に続く)


 

前編はここまでとなります。

もしはじめて「防災教育を担当することになった」という先生方で、どのように進めたらいいか分からないという方がおられましたら、お気軽にご相談ください。先生方も、我々のような外部からサポートする側も、児童生徒も「一緒に学ぶ」という姿勢で取り組むのが、よい防災教育につながるのだと考えています。

先生方だけでなく、地域の方、NPOの方など、様々な方が防災教育に携わられることと思います。限られた時間で防災を伝えるのはとても難しいことですが、大切な子供たちの命のためにも「やってよかった!」と思える防災教育ができたらいいですね。

 

お問い合わせは 03-6822-9900 まで