活動紹介

都内大学で『被災』疑似体験ワークを実施、他者理解のきっかけに

成蹊大学が実施するフレッシャーズ講座の一コマ、ボランティア活動支援センターの担当部分を、昨年度に引き続き担当させていただきました。フレッシャーズ講座については こちら[外部リンク]をご覧ください。第13回目、講座終盤となる今回のテーマは『災害と他者理解』ということで、被災地や被災された方とのコミュニケーションのあり方を通じて考えてもらいました。

実際に被災した当時中学生の言葉を読み解き、自分なりにその理由を考えるワークや、みえ防災市民会議が公開している 『被災』疑似体験ワーク(SaTa-Sen)[外部リンク]を用いたワークを実施し「被災された方の気持ちを考えるうえで、大切なポイントは何か」という問いかけについて考えてもらいました。

疑似体験ワークでは被災の状況を具体的にイメージしてもらうため、講座では予め被災経験があるなどで配慮が必要な学生がいれば個別に対応するなど、学内の関係部署と連携をとりながら準備し、実施しました。

(担当:宮崎)

警視庁が初の学生向け宿泊防災イベント、企画運営に協力

 

概要

警視庁警備部災害対策課・東京臨海広域防災公園は、2017年6月17日(土)から一泊二日で、大学生の災害ボランティア育成を目的とした宿泊防災イベント『そなエリア東京大学一泊サバイバル体験』を開催し都内各大学から男女19名の学生が参加しました。弊会の首都圏講座(都内の大学を中心に開催する災害救援ボランティア講座)を担当する宮崎事務局員がイベントの企画・運営に協力しました。イベントの詳細は2017年5月8日時点の記事 こちら をご覧ください。

 

発災~大学での滞留

冒頭に主催者である警視庁から趣旨説明があり、大学生が地域の防災活動や災害支援活動にとって力になること、積極的に考え行動して欲しいことなどを参加者に伝えました。参加者はその後「映画館で大地震に見舞われた、"そなエリア東京大学"の学生」という想定で、そなエリア東京の体験施設を使用して避難や、傷病者の避難支援、災害情報収集などを行いました。大学が開放している帰宅困難者避難スペースを想定した会議室に移動し、大学教職員役の宮崎事務局員から帰宅困難滞留時の注意点について説明がありました。

 

帰宅困難時の注意点確認・チームビルディング

次いで「大学の防災訓練指導に来ていた」想定の警視庁警備部災害対策課特殊救助隊の隊員から、被災地支援活動についての体験や活動上の注意点、傷病者の搬送法や応急救助の方法について指導を受けました。特殊救助隊の隊員からは「活動中の隊員はどうしても目の前の作業に集中しなければならず、周りが見えなくなることもある。安全管理を担当する隊員が付くことが重要」といったお話もいただきました。

特殊救助隊員の説明を受けた後、参加学生は4つのチームに分かれ「持ち物・知識・経験」や「72時間の大学滞留で必要なもの・こと」、「配慮が必要な方にできる支援」などを話し合いました。

 

「自ら考え行動する」、トイレ・食事・寝床づくり

以降のプログラムは、手順や時間配分など全て各チームのリーダーの判断により行われました。まず、使用できるスペースを確認して「どこを、どのように使うか」を全員で話し合って決めた後、大学の備蓄倉庫を想定した倉庫から段ボール箱や毛布、非常食や飲料水などを全員で協力して取り出しました。人数などを考慮してトイレ班・食事班・寝床班に分かれ、それぞれが作業を行いました。

夜には当日取材に来ていたテレビ局のニュースでイベントが紹介されることを知り、テレビの前に参加者が集まるようすも見られました。自分たちの姿がテレビに映ると「おおっ!」という歓声があがり、拍手が起こりました。同行していたメディア関係者からは「東日本大震災後の避難所では、スポーツイベントの番組に避難者が釘付けになって応援しているのを見て、スポーツの力はすごいと感じました。被災映像ばかりでは疲れてしまいますから、こういう場面も大事ですね」といったお話もありました。

 

 

深夜に地震・火災発生、要配慮者の避難支援

停電を想定した午前0時の消灯から約2時間後、警視庁による緊急放送で地震と火災発生のアナウンスが行われ、参加学生はすぐに出入り口付近まで避難しました。また、その際は一緒に就寝していた要配慮者(聴覚障害者)役の警視庁職員の避難誘導を支援しました。

  

朝食と清掃、行動計画の検討

リーダーを中心に起床時間を6時とし、参加学生は朝食づくりや使用した資機材の撤収、清掃などを行いました。午前8時からは今回想定する地震に関する被害情報や、警視庁からの交通情報、会場周辺のハザードマップなどを元にチーム毎に「もし実際に被災しているとしたら、今日は何をして過ごすか」をテーマに行動計画を検討しました。

  

災害情報の収集・伝達訓練

翌朝9時からは、「そなエリア東京大学」周辺で起きている様々な課題の解決を、無線機を用いた災害情報収集伝達によって支援するという訓練を行いました。各チームに警視庁職員が付き、災害情報が記載されたカードをやりとりする『災害情報収集・伝達とコミュニケーション演習-DICE(ダイス)-』を用いて、情報収集・伝達や適切なコミュニケーション、無線機の使い方などを学びました。

  

まとめ

訓練終了後、参加した学生全員から一言ずつ感想を述べてもらいました。リーダーを経験した学生からは「流れでリーダーになっていたが、自分ひとりではどうすることもできなかった。周りのみんなが支えてくれたり、自分たちで積極的に行動してくれたので、やり遂げることができた」といった感想がありました。警視庁からは「警視庁としても初めての訓練なので不安もあったが、学生の皆さんがこんなに大勢参加してくれて、また指示を待つことなく自ら考え行動する姿を見て、とても嬉しい。ぜひ今後とも皆さんとはつながっていきたい。」といったお話をいただきました。

 

【終了】防災ゲームDay2017inそなエリア東京(7月2日)

※このイベントは終了しました。

報告は 防災教育普及協会-活動実績 よりご確認いただけます。

 

防災教育に関するゲームや教材を体験してみよう!!

防災体験学習施設「そなエリア東京」を会場に、弊会関係団体である一般社団法人防災教育普及協会が下記のイベントを開催します。さまざまな防災教育に関するゲームや教材を体験することができます。

小さなお子さんや親子連れの方はカードやすごろく形式のゲームで楽しく防災を学ぶことができます。教職員・学校関係者、防災関係団体、行政関係の方など防災教育に関わる方々は、レクチャールームで行われる体験講座で実際にゲームや教材を体験的に学べます。

終日、実際にゲームを体験できるコーナーや展示コーナーが開設されていますので、お気軽にご参加ください。なお昨年のイベントレポートが同会ホームページにて掲載されていますので合わせてご覧ください。

※なおイベント情報は随時更新されています。最新情報は同会のホームページをご確認ください。

http://www.bousai-edu.jp/

 

◆イベント概要

イベント名 : 防災ゲームDay2017inそなエリア東京

日 時 : 2017年7月2日(日) 10:00~16:00

会 場 : 東京臨海広域防災公園そなエリア東京(アクセス:ゆりかめも「有明」駅徒歩2分)

アクセスマップ

内 容 : 防災ゲーム、教材、資料の展示及び体験型講座

参加費 : 無料

参加申込 : 不要です。当日、会場にお越しください。

主 催 : 東京臨海広域防災公園管理センター、一般社団法人防災教育普及協会
後 援 : 江東区

 

◆イベントチラシ

 

▶ 170702_防災ゲームDay2017チラシ[PDF]

(more…)

明治大学で学生向けに発災対応型演習、安全管理を学ぶ

明治大学駿河台ボランティアセンター主催『災害救援ボランティア講座』の一科目「災害時のリーダーシップとチームビルディング」で、大学生が大学で被災した際の対応演習を実施しました。同内容は、2017年6月17日~18日にかけて警視庁警備部災害対策課と実施する訓練内容の一部を、座学演習にアレンジしたものです。

実際に大学内で被災したことを想定し、以下のような流れでグループディスカッションを行いました。

◇ 被害想定を読み解き、現状を整理
◇ 自分の持ち物や知識経験を確認
◇ 6人以下のチーム編成とリーダー決め
◇ チーム内での情報共有
◇ 長期滞在を想定した活動環境整備
◇ 危険を伴う救助活動への対応
◇ トラブル防止のルール検討
◇ 体調不良・ケガ人発生時の対応 など

ディスカッション後には全ての設問に対して、実際に各被災地や2011年3月11日と12日に千代田区内の4つの大学を巡回したスタッフの経験を踏まえて、解説や行動の要点などを紹介しました。

防災ミニ講座に上級講座第19期「地域における防災教育の実践」全文掲載

『防災ミニ講座』に上級第19期講座・地域連携プログラム③「地域における防災教育の実践」で使用したテキスト全文を掲載しました。

◯防災ミニ講座第30回「地域における防災教育の実践」

http://www.saigai.or.jp/info/2017/0606163330.html

第30回 地域連携プログラム『地域における防災教育の実践』

第30回 地域連携プログラム『地域における防災教育の実践』

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、社会福祉士
災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長

 

【サマリー】

本記事は災害救援ボランティア推進委員会が認定する「地域防災インストラクター」養成講座のために作成したものです。広くインストラクター希望者にご利用いただくため、全文を災害救援ボランティア推進委員会ホームページで公開しています。本文の一部リンクはホームページにアクセスすることで利用できます。また、本記事の内容は全てPDFでダウンロードしていただくことができます。

★資料ダウンロード(平成29年度神奈川県学校保健・学校安全研修版)

▶ 地域における防災教育の実践に関する手引きテキスト[PDF]

 

1『地域における防災教育の実践に関する手引き』紹介 

「地域における防災教育の実践に関する手引き」は、平成27年3月に内閣府(防災担当)が公開した冊子です。内閣府(防災担当)は、2004年度から防災教育の専門家や有識者と共に『防災教育チャレンジプラン』という防災教育支援事業を実施しています。防災教育チャレンジプランの支援によって、数多くの学校や団体が防災教育を実践し、様々な防災教育プログラムや教材が開発、使用されました。東北地方太平洋沖地震の後、防災教育の象徴的な事例として取り上げられた岩手県釜石市立釜石東中学校の地域と連携した防災教育の取り組みも、2010年と2011年、同プランに採択されていました。

こうした積み重ねによる豊富な事例や教材を整理し「防災教育にチャレンジしたいけれど、何からはじめ、どうしたらいいか分からない」方々、特に地域や学校の防災教育に関わる立場の方々に向けて作成されたのがこの手引きです。

本テキストは、筆者が手引き作成時の事前ヒアリング調査や項目分類、関係団体への防災教育実践等にご協力させていただいた経験から、手引きをより効果的に活用するためのポイントや、掲載されている代表的な教材などについて、手引きの構成を中心に取り上げ、各項目についてご紹介します。地域・学校における防災教育実践の一助となれば幸いです。

なお、本資料は講義実施後に『災害救援ボランティア推進委員会』ホームページ上よりPDF型式でダウンロードできます。地域での活動等でお役立てください。

1.1 関係リンク(クリックでアクセスできます)

 

2 手引きの概要

2.1 背景と目的

手引きが作成された背景や目的は、本体1p.より引用します。


"我が国では、毎年、地震や風水害など、多くの異常な自然現象が発生しており、これらの自然災害による被害を小さくするためには、「自助」、「共助」、「公助」の取組が重要です。平成23年3月11日に発生した東日本大震災では、大規模広域災害時における「公助」の限界が明らかになった一方で、「自助」、「共助」の重要性が再認識され、これをきっかけにして、「自助」、「共助」の力を向上させる取組として、防災教育への関心が高まっています。しかし、何から始めればよいかわからない、活動を行うための資金や知識がないなどの様々な課題により、取組が進まない事例が存在します。本手引きは、このような状況を踏まえ、全国各地で防災教育を推進することを目的として、優秀な先進事例から得られる取組を進めるための知見を整理し、防災教育を実践する過程で生じる様々な課題を解決するためのヒントを示すものです。” 


 防災教育を学校や地域で取り組もうとすると、様々な課題があります。その課題や解決策を「ポイント」として整理・共有することで、防災教育の実践を普及していくことが、手引き作成の目的です。

 

2.2 手引きの対象

教育・福祉関係団体(学校、幼稚園、保育施設など)に限らず、地域住民団体、ボランティア団体、地方公共団体などにおいて、これから防災教育に初めて取り組もうとする方が主な対象になっています。

 

2.3 防災教育を実践するにあたって

2.3.1 防災教育の目的

『地域に属するひとりひとりの防災意識の向上を図り、地域内の連携を促進することなどにより、地域の防災力(災害を未然に防止し、災害が発生した場合における被害の拡大を防ぎ及び災害の復旧を図る力)を強化すること』が防災教育の目的として示されています。必ずしも対象は児童生徒だけではありません。

 

2.3.2 防災教育を実践する上での五箇条

地域の特性や問題点、過去の被災経験を知ること。

防災教育を実践するにあたっては、まず地域の脆弱性(過去にどのような災害が発生し、どの程度の被害が出ているか等)を把握し、想定される災害リスクを的確に捉えることが必要です。また、自然を「過去に大きな被害をもたらした恐怖の対象」として伝えると、学ぶことや考えることを避けてしまいがちです。自然が与えてくれる美しい景観や様々な恵み、日本で暮らすことの価値や意味も、併せて伝えていくことが求められます。

「自然災害によって被害を受ける可能性がある」ということは厳しい現実ですが、一方で日常的にたくさんの恩恵も受けている、という自然の二面性について理解を促すことも、防災教育の大切な役割のひとつです。

 

まずは行動し、身をもって体験すること。

防災教育を実践しようと思う方は、まずは自ら行動に移し、周囲にその必要性と成果を示すことが重要です。防災対策や防災教育の必要性は理解しつつも「具体的にどうしたらいいのか分からない」あるいは「他に優先してやらなければならないことがある」という理由から、なかなか具体的な実践に結びつかないことがあるかもしれません。
 そうした場合は例えどんなにわずかな、初歩的な取り組みだとしても、誰かが行動を起こすことが重要です。後述するように、手引きには楽しみながら気軽に取り組める教材やプログラムについての情報も掲載されています。まずは実践したいと思う方が、自ら身をもって体験し、チャレンジしましょう!

 

身の丈に合った取組とすること。

決して無理をせず、欲張らず、自分たちのできる範囲で取組を進めることです。手引きやインターネットにはさまざまな防災教育実践が掲載されています。ただ①で紹介したように防災教育はそれぞれの地域特性などに応じた実践が必要です。別の地域、別の学校で取り組まれた内容がそのまま適用できるとは限りません。優れた実践は、様々な実践を積み重ねて成果を挙げています。焦らず、少しずつできるところからはじめ、継続していくことが大切です。

 

様々な立場の関係者と積極的に交流すること。

 防災教育、そして実際の災害発生時に関わるのは学校と児童生徒、保護者や地域住民だけではありません。消防や防災課、NPOや民間企業・団体、自主防災組織など、周囲の関係者と協力・連携することが重要です。積極的な交流のなかから新しい知見が生まれ、より効果的な実践につながります。
 いきなり交流するのが難しいと感じる場合は防災教育チャレンジプランが主催する「防災教育交流フォーラム」などのイベントに参加し、同じ目的や課題を共有する実践団体と交流してみるのも良いでしょう。皆さんと同じような課題を持ち、また解決に向かって取り組む「仲間」が見つかるはずです。

 

明るく、楽しく、気軽に実行すること。

最後は、日常生活の中で気軽に継続できる取組を進められるよう、楽しみながら実践することです。防災教育は目に見える成果が出にくいものです。それでいて、長期間に渡って地道な継続が求められる取り組みでもあります。「やらなければならない」という想いだけが強くなってしまうと、自分も周囲も続けるのが苦しくなってしまいます。明るく、楽しく、気軽に実行することからはじめてみましょう。

 

2.4 地域における防災教育を実践する上で重要なポイント

2.4.1 3つの段階を意識する

地域における防災教育の実践には3つの段階があります。

 

【準備】

 地域の災害特性や児童生徒の発達段階、学習テーマ、予算、関係団体との調整など、防災教育を実行するまでの様々な準備の段階です。地味で手間のかかる段階ですが、この段階でしっかりと内容を詰め、関係者と調整を行っておくことがその後の実行・継続段階に影響します。じっくりと時間をかけて準備しましょう(初めてチャレンジされる場合の目安としては実際に授業を行う2~3ヶ月前からの準備をオススメしています)。

 

【実行】

防災教育を実践する段階です。準備してきた内容に基づいて実践します。うまくいかないことがあるかもしれませんが、前述のように「まずは身をもって体験す る」ことが重要です。しっかりと準備をしていれば、大きな失敗をすることはないかと思いますが、それでも「思ったより時間がかかってしまった」とか「うまく伝えたいことが伝えられなかった」「児童生徒が興味をもって参加してくれなかった」などが課題になることもあります。実践の成果を正しく評価するためにも、振り返りシートやアンケートなど実践結果を確認できるような準備をしておくことも大切です。

 

【継続】

準備し、実行したら次は「継続」です。同じ対象(同じ児童生徒)に繰り返し防災教育を実践することは難しいかもしれませんが、同じ地域、同じ学校等で継続することが重要です。また、継続するためには【担い手】や【つなぎ手】を育てていくことも必要です。 なるべく多くの人と協力しながら防災教育を実践し、中心的な人物が異動等によって実践に関わることが難しくなった場合でも、継続できるような仕組みをつくりましょう。予算についても重要で、助成金などをアテにした実施では助成金がなくなったあとが辛くなります。なるべく経費を抑え、無理のない実践を工夫しながら継続します。

 

2.4.2 6つの要素でポイントを整理しておく

手引きでは防災教育実践に関わる要素を次の6つで整理しています。

人【担い手・つなぎ手】
防災教育を実践する担い手(教員やボランティア、場合によっては生徒自身も含む)やつなぎ手(実践をサポートしたり、継続的に関わってくれたりする人たち)のことです。「教育は人なり」という言葉がありますが、防災教育もまた同様です。

運営【組織・体制】
防災教育を実践する主体、受ける主体、そしてそれらをつなぐ組織や体制のことです。特に手引きでは地域から学校へのアプローチを大切にしていますので、学校と地域をまきこんでいけるような組織・体制づくりがポイントになります。

場【時間・場所】
防災教育をいつ、どこで実践するかということです。時間は短い場合は数十分、長い場合は数時間まで幅広く対応できるようなプログラムがあると便利です。場は学校が多いかと思いますが、まちあるきなどは地域が場所となることもあります。

お金【資金・経費】
防災教育実践にどの程度の資金・経費が必要かということです。どれくらいが適切か、という基準はありませんが、公的機関やボランティアの方に指導を協力してもらうなど、なるべく支出を抑えた実践が望まれます。単に「節約のため」ではなく「自分たちの責任でやるのだ」という想いをもって準備することがポイントです。

ネタ【知識・教材】
防災教育実践にどのような知識が必要で、どんな教材を使うか、ということです。はじめはなるべくシンプルで、負担のかからない教材を活用していただくこと をオススメしています。下記に手引き本体にも紹介されており、かつ筆者がこれまでの実践経験から「これから防災教育にチャレンジしてみたい!」という方にオススメする「防災教育実践教材7選-小中学校編-)」を記載しますので、ご参照ください。

1 ぼうさいダック(一般社団法人日本損害保険協会)
 → 学習テーマ例【災害・危険発生時の安全行動の理解】、幼保育園~小学校

2 うさぎ一家のぼうさいグッズえらび(一般社団法人防災教育普及協会,宮﨑)
 → 学習テーマ例【防災グッズ、家庭の備え】、小学校~一般

3 なまずの学校(NPO法人プラス・アーツ)
→ 学習テーマ例【地震災害対応、身近なものの活用、備え】、小学校中学年~一般

4 災害対応カードゲーム教材「クロスロード」(チームクロスロード)
 → 学習テーマ例【災害時のコミュニケーション、意思決定】、中学生~一般

5 災害状況を想像してみよう!(東京大学生産技術研究所目黒研究室、防災教育普及協会,宮﨑)
 → 学習テーマ例【災害状況を想像する、適切な対策をとる】、中学生~一般

6 まちのBOSAIマスター(高齢者住まいる研究会)
 → 学習テーマ例【防災基礎知識、備蓄など様々】、小学校低学年~一般

7 ぼうさい探険隊(一般社団法人日本損害保険協会)
 → 学習テーマ例【地域理解、防災マップ、安全点検】、小学校~一般

※各教材の詳細、学校・家庭・地域における防災教育での活用法についてはお気軽にご相談ください。

手引き本体の巻末には他にも様々な教材やプログラムの紹介ページが、専門家によるチェックのもと掲載されていますので、併せてご覧ください。

コツ【工夫】
過去に行われた(他の地域も含めて)事例や教訓などから、実践を効果的・効率的に行うためのコツや工夫です。実践内容そのものだけでなく、例えば「まず年度初めに●●の●●さんにあいさつに行って、日程や内容の調整をしておく」といった、人間関係に関わるような実務的なことも忘れがちですが重要なポイントです。

 

2.4.3 18のポイント

手引きは、前述の3つの段階と6つの要素を組み合わせた合計18のポイントで整理されています。どの段階で、どんな要素に関連した課題や「つまづき」があるかをイメージしてから手引きを手にとっていただくと、より課題解決がしやすくなります。

(地域における防災教育の実践に関する手引きの概要 より)

 

3.手引きを有効に活用するための6つのポイント

以上のように、手引きはこれまで様々な実践を重ねてきた団体を対象に丁寧なヒアリングを行いポイントが整理されたものです。さらにこの手引きを有効に活用していただくためのポイントを、筆者なりに6つにまとめてみました。

 

3.1 まずは「防災教育はどう実践されるのか」全体像を把握しよう

既に防災教育を実践されている方も、あるいはこれから実践しようという方も、まずは冊子を手に入れる、もしくはインターネットを使って内閣府(防災担当)のページからダウンロードしていただき、ご一読いただくことをオススメします。手引きは防災教育実践を「特定の、誰かができること」から「どの地域の、誰でもできること」にできるよう、作成されています。近年の被災経験地域でも、そうでない地域でも、標準化(スタンダード)された防災教育の実践手法を確認しておくことが大切です。

「とにかく災害や防災について教えれば防災教育になる」という考え方もあります。ですが、発達段階や理解度、環境を踏まえなければ、学びたいという意欲をうばってしまったり、逆にリスクを高めたりしてしまう可能性もあります。指導者が「伝えたい」と思っている内容と学習者(児童生徒、住民)や依頼者(講師依頼等を受けた場合の学校や自治会等)が望んでいることは、同じではないかもしれません。

伝えたいことをそのままぶつけるのではなく、手引きとひとつひとつ照らし合わせながら、順を追って慎重に進めていくことも必要です。

 

3.2 学校関係者など、実践に関わる人に手引きを読んでもらおう

3.1で確認したら、防災教育実践の「担い手・つなぎ手」つくりのきっかけとして、ぜひ近隣の学校関係者や防災関係機関などに手引きを読んでいただくのも効果的です。手引きでお伝えしたい大切なノウハウは、自分(指導者)だけが知っているだけでなく、学校関係者、自治会役員、防災関係機関など知っていることで、より高い効果を発揮することでしょう。A4一枚の「概要版」もありますので、活用してください。

 

3.3 手軽な教材やプログラムから試しにやってみよう、マネしてみよう

前述の「防災教育実践教材7選」のように、過去の実践事例が豊富にあり、教材としてシンプルなものをまず試してみることをオススメします。特に「ぼうさいダック」や「うさぎ一家の防災グッズえらび」、「まちのBOSAIマスター」は、短時間でもできる教材として作成されています。はじめて使ってみる教材としては、適当と言えるでしょう。

 

3.4 まずは継続、それからレベルアップ!

防災教育実践五箇条にも書いてありますが「身の丈に合った」実践が重要です。そしてその実践が「継続」できることもまた同じく重要です。手軽な教材、あるいは新しく考えた教材やプログラムを、学校や地域の防災教育の場面で何度か実践してから、より高いレベルでの実践を目指してチャレンジしましょう。

「時間と労力とお金をたくさんかけて、素晴らしい実践をする」のは大事なことですが、中心人物がいなくなった途端にやらなくなってしまった、水準が維持できなくなってしまった、という事例もあります(「防災教育の属人化」と言っています)」。その地域や学校で、無理なく気長に続けられるような実践が求められます。

 

3.5 成果は広く発信、学校・家庭・地域に伝えていこう

継続していくためには、一人でも多くの理解者(担い手・つなぎ手)が必要です。実践した成果は広く学校、家庭、地域に伝えていきましょう。防災教育チャレンジプランホームページで公開されている、支援事業への応募や交流会への参加も効果的です。

近年はSNS(ソーシャルネットワークサービス、ツイッターやフェイスブックなど)を利用される方も増えている一方で、あまりパソコンやインターネットを使用されない方もいます。地元の新聞社やケーブルテレビ局に情報を提供することも、実際の災害時に有効なつながりになりますので、効果的な情報発信を兼ねた関係づくりといえます。

 

3.6 “関心がない、参加しない、協力的でない”人のことも考えよう

【防災4.0とは】我が国は、その自然的条件から、様々な災害が発生しやすい特性を有しており、これまでの度重なる大災害の教訓を踏まえ、防災に関する取組を推進してきました。特に伊勢湾台風(1959=1.0)、阪神淡路大震災(1995=2.0)、東日本大震災(2011=3.0)は大きな転換点となってきました。気候変動がもたらす災害の激甚化は、これら大災害に相当する可能性があり、行政だけでなく一人一人が災害のリスクとどう向き合うかを考え、備えるための契機となるようあらたな防災減災対策の方向性を打ち出したいという決意を込めて、本プロジェクトの名称に「防災4.0」を冠しました。(内閣府ホームページより)

  
http://www.bousai.go.jp/kaigirep/kenkyu/miraikousou/

 防災4.0未来構想プロジェクトでは、これからの災害リスク対策には防災教育や地域での防災活動(訓練、イベント、ワークショップなど)を通じて、広く国民に防災意識の普及啓発を進めていくことが重要と考えられており、様々な取り組みが進められています。地域防災インストラクターの活動はますます重要になってくると言えます。
 その一方でどのような地域、学校、団体でも「防災に関心があり意欲的で講習や訓練に参加する」人たちばかりではありません。皆さんからしたら「関心がない、行動力がない、やる気がない」と感じてしまう方もいるかもしれません。

 ですが筆者は「関心や意欲」と「行動」は全く別の問題だと考えています。関心があっても、家庭や仕事の都合で参加できない人も多いのではないでしょうか。その人達は本当に防災に、無関心で行動力がないのでしょうか。他に原因はないのでしょうか。地域防災実践で課題を感じたら、その課題の原因が何かを冷静に考えてみることも必要です。

 

4.防災教育実践のススメ

4.1 防災教育の「目的」と「目標」を整理してみる

防災教育を実践するうえでぜひ、一度考えていただきたい、整理していただきたい言葉があります。それは「目的」と「目標」です。

手引きでは防災教育の「目的」を、2.3.1で示したように『地域の防災力を強化する』こととしています。「目的」とはつまり「何のために」という到達点です。

防災教育の目的は「いのちを守る」ことではないのか、と思われるかもしれませんが、「(防災教育を受けた人が)いのちを守れるようになる」だけでは、その人自身も、地域も、災害を乗り越えることはできません。家族や友人のいのちはもちろん、経済的なこと、避難生活、学校や事業所の活動も守られることも重要です。ですが、それら全てを「自分で守れるようになれ」というのは現実には困難です。

学校、家庭、地域、そして社会全体で、ひとりひとりがそれぞれの形で「いのちを守る」ことが必要になります。また「いのち」を守った後は、備蓄品等を活用し、避難生活を乗り越え、復旧・復興へと歩みださねばなりません。「いのち」だけでなく生活や人生を守ることもまた、防災教育においては重要な学習テーマです。その到達点、達成が『地域の防災力を強化する』という目的になります。「いのちを守る」のは、目的を達成するためには欠かすことのできない ”標” のひとつ、つまり目標ということになります。

筆者は防災教育の”目標”として「いのち(生命)=Life」、「生活=Livelihood」、
「人生=Lives」、それぞれ英語の頭文字をとって『3つのLを守る』ことが重要である」と説明しています。

ぜひ学校・家庭・地域で防災教育を実践される際は、学習者が理解しやすいよう、目標と目的を整理して取り組んでいただければと思います。

 

4.2 短時間で実践可能な小中連携の防災授業計画(例)

 神奈川県内市区町村(海沿いで山間部や観光地もある)の教員研究会で作成した、小中連携による短時間で実践可能な防災授業計画例をご紹介します(下図)。小学校6年間、中学校3年間に分けて、段階的に必要最低限のことを学べるよう整理しています。

 避難訓練の前後やホームルームなど、15分~程度で実施が可能な内容を中心に構成しています。それぞれに指導案も作成し、実施する教員の負担を軽減しました。まず安全行動などの習得を徹底し、細かなメカニズムや判断を伴う内容の学習は高学年以降を中心にしています。一度に色々教えるのではなく、児童生徒が過去に学習した内容を少しずつ振り返り、確認しながらより詳しい内容へと踏み込んでいくことで、学びの定着を促します。

 

4.3 地域の防災力を高めるために…

 災害からいのちを守るために学ばなければならないこと、できるようにならなければならないことは数多くありますが、まずは各学校各地域において、小学校低学年で想定されるような基礎知識(例:地震発生や津波想定時の安全行動等)の理解が学校・家庭・地域において徹底されているかどうかを、ご確認いただきたいと思います。

充分な授業時間を確保することが難しい、防災(教育)について専門的な知識を学ぶ機会も限られている、そのような状況だからこそ、シェイクアウト訓練に代表される「必要最低限の防災教育(訓練)」が求められると考えています。手引きには、様々な事例やプログラムも掲載されています。皆さんの地域にとって参考になるポイントや資料があるはずです。また、手引きはすべて英訳されており、英語版をダウンロードすることもできます。2015年3月に仙台市で開催された「第3回国連防災世界会議」において広く国内外に対して発信されており、国や地域を越えた応用が可能であることが示されています。

災害から児童生徒のいのちを守るために必要なのは、皆さんが実践した、あるいはこれから実施する『防災教育』かもしれません。それがどんなに単純な内容であったとしても、例え1回しかできず継続できなかったとしても、その1回がたくさんの人を守ることにつながるかもしれません。

学校・家庭・地域における防災教育実践は、地域の防災力に欠かせない手段のひとつです。手引きを参考に、ひとりでも多くの方が、ひとつでも多くの地域で、防災教育が実践されることを願っています。(2017年6月,筆者)