第5回 大学における災害ボランティア育成の現状と展望
宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士
災害救援ボランティア推進委員会 主任
「災害救援ボランティア推進委員会による災害ボランティア育成は、首都圏を中心とする多くの大学で取り入れられています。ふくしと教育2012年2月号に掲載したレポートを紹介させていただきます。」
●本講の内容
1 災害救援ボランティア育成の概要
2 大学における災害ボランティア育成と成果
3 学生ボランティアによる活動
4 今後の展望-石巻モデルに学ぶ
災害救援ボランティア推進委員会(以下「本会」)は平成7年の阪神・淡路大震災を契機に設立された民間団体である。総務省消防庁が示す基準に基づく講座を行い、災害救援、地域防災を担うリーダーを育成、大規模災害の被害を軽減することを目的としている。
本会の災害ボランティア育成の仕組みは首都圏を中心に多くの大学で取り入れられており、3月11日の東日本大震災緊急対応や、その後の学生ボランティア活動へとつながっている。
1 災害救援ボランティア育成の概要
① 講座について
本会の災害ボランティア育成の特徴は東京消防庁のOBや有識者による座学講義、救命技能および災害模擬体験と実技、そして災害ボランティア経験者による実戦的な演習をパッケージ型講座で開講している点にある。講座は3日間24時間を基本とし、うち12時間は実技体験となっている。
② セーフティリーダーの育成
講座を修了した者は本会から「セーフティリーダー(以下「SL」)」に認定されSL認定証が交付される。また東京都内の場合は、東京消防庁から上級救命技能認定証も交付される。
講座は平成7年に第1回を東京都内で開講して以来、平成23年11月現在で197回を開講、SLの総数は7,000名を超えた。とくに近年では大学生のSL認定者が増加しており、年間認定者数の7割が大学生である(図1)。
③ 活動実績
こうした活動が認められ、本会は平成16年に防災まちづくり大賞総務大臣賞、防災功労者内閣総理大臣表彰を受賞している。また、地域や大学で活動するSLも高く評価されている。SLが代表を務める「たかしま災害ボランティアネットワーク」は平成21年に防災まちづくり大賞総務大臣賞、防災功労者内閣総理大臣表彰、「千葉市SLネットワーク」は平成22年に防災功労者防災担当大臣表彰を受賞した。学生SLが代表を務める上智大学「SLS@Sophia」は平成22年に学内での防災活動が認められ上智大学課外活動団体学長奨励賞を受賞している。
2 大学における災害ボランティア育成と成果
本会の災害ボランティア育成は一橋大学・東京大学・立教大学・中央大学・明治大学・法政大学・上智大学・専修大学・目白大学・中央学院大学・富山大学(順不同)等で取り入れられている。本会の災害ボランティア育成が多くの大学で導入されるようになった3つの要因をまとめた。
(1)行政と大学と外部団体の協力関係を構築
第一の要因は、行政・大学・外部団体(災害ボランティア専門団体)の円滑な協力関係を構築している点である。ここでは特徴的な2つのモデルケースについて紹介する。
① 千代田モデル
平成16年千代田区は明治大学と「大規模災害時における協力体制に関する基本協定」を締結した。主な内容は学生ボランティアの育成、地域住民及び帰宅困難者等被災者への一時的な施設の提供、大学施設に収容した被災者への備蓄物資の提供の3点である。千代田区は明治大学との締結を皮切りに、平成23年現在区内11大学中8大学と協定を締結している。
明治大学と法政大学は平成16年、協定に示される学生ボランティア育成として本会の災害ボランティア講座を取り入れた。これがきっかけとなって現在、上智大学、専修大学でも導入されている。
千代田モデルでは、大学がたんに施設を提供するだけではなく、学生ボランティアの育成、派遣を努力目標に掲げている。その具体化として大学が災害救援ボランティア講座を主催していること、災害ボランティア団体が講座を支援していること、行政(千代田区)がその取り組みを支援していることに特徴がある(図2)。
② 富山モデル
平成17年から富山県では、県と富山県大学連携協議会(県内の大学によるネットワーク)、本会が協力して富山大学等を会場に県内の大学生を対象とした災害ボランティア育成を行っている。富山モデルの特徴は、複数の大学が連携して講座を開講し、行政(富山県)がその取り組みを支援している点にある。
どちらのモデルも大学と行政、外部の災害ボランティア組織が協力することにより、災害ボランティア育成の専門性を高めながら継続している。こうした取り組みにより、平成23年10月現在で千代田モデル(区内4大学)では807名、富山モデルで243名、全国で2,731名の学生をSLとして認定する成果を挙げ、学生SLは全SL総数の約4割となっている。
(2)大学による能動的な体制づくり
第二の要因は大学による能動的な体制作りを推進した点である。主に大学・担当者との信頼関係を築くとともに、学生ボランティアへのフォローアップを継続して実施し、それぞれが主体的に取り組める体制構築を進めている。
① 上智大学の取り組み
上智大学は平成19年より学生ボランティア育成に取り組んでいる。平成21年、翌22年は千代田区帰宅困難者避難訓練会場に大学キャンパスを提供し、学生ボランティアが教職員と共に大学災害ボランティアセンター運営訓練や帰宅困難者支援訓練に参加した(写真)。
上智大学は平成22年には災害救援ボランティア講座の開催と講座を修了した学生による活動、継続的な防災訓練、講習会が行われているといった点が高く評価され、区内大学として初めて千代田区防災貢献者表彰を受賞した。
② 東日本大震災に対する取り組み
3月11日に発生した大地震は首都圏にも被害をもたらした。千代田区内でも多くの帰宅困難者が発生した。明治大学、法政大学、専修大学、上智大学の学生ボランティア育成に取り組む4大学は区の指示を待つことなく率先して滞留する学生・教職員と帰宅困難者の支援活動に取り組んだ。
筆者は震災当日から翌日にかけて区内4大学を訪れ、帰宅困難者支援活動の情報収集やサポートをさせていただいた。いずれの大学も大きな混乱なく施設を開放するとともに学生・教職員が協力して毛布等の救援物資を配布していた。円滑な支援活動の裏側には、平時からの防災協定と協定に基づくボランティア育成、その浸透もあったと考えられる。
また、その後の支援活動では災害ボランティア育成を行う大学も被災地へ学生を派遣している。活動を希望する学生に対する事前説明会を大学が主催し、これまでの関係を活かしていずれの大学も筆者が講師を担当した。大学の能動的な災害対応への姿勢と災害NPOとの連携が、初めての被災地派遣に対する学生の不安を抑え、被災地での学生・教職員の事故を未然に防ぐための対策へとつながった。結果として多くの学生ボランティアが被災地で安全に活動できるようになり、復旧復興支援に少なからず貢献したと考えられる。
③ 学生の学内での自主的な取り組みづくり
第三の要因は大学だけでなく学生の自主的な取り組みを支援した点である。千代田区内では上智大学のSLS@Sophia、明治大学の駿河台災害救援班、法政大学のチームオレンジ、専修大学の専修神田ボランティア(SKV)などが学生SLを中心に構成されている。主な活動として防災講習会の開催や防災に関するイベントへの参加、3月11日以降は被災地の支援活動なども行っており、本会もその活動を支援している。
彼らの活動は前述した大学による能動的な体制と車の両輪であり、双方の活動が継続的な災害ボランティア育成につながっている。
3 学生ボランティアによる活動
育成された学生ボランティアは学んだ知識、技能を活かした活動を行っている。とくに災害救援活動、防災教育活動の2つについて紹介したい。
(1)災害救援活動
専修大学では4月2日から5日にかけて、SKVメンバーを石巻専修大学支援に派遣した。この時期に多くの大学は学生の安全や現地の情報不足を考慮し、安易に被災地へ入らないよう呼びかけていた。しかし、SKVメンバーは災害ボランティアの知識・技能を身につけた学生であるという大学側の判断により、ボランティアが必要とされる早期段階での被災地派遣が実現した。また、夏期に行われた石巻支援活動では、SKVメンバーが一般学生のリーダーとなって支援活動に取り組んだ。
(2)防災教育支援活動
学生SLは講座で学んだ知識や技能をより若い世代に伝えていく役割も担っている。本会は平成20年度から学校における防災教育の支援にも携わっている。児童生徒に対して様々な防災体験学習を行う際に安全管理や、災害時の対応に関する指導などを主なボランティア活動として行っている。
東日本大震災以降は大学生による災害ボランティア体験を中高生に伝えていく取り組みも進められており、災害ボランティアの知識・技能をもった大学生ボランティアの活躍の場は今後ますます広がっていくだろう。
4 今後の展望-石巻モデルに学ぶ
これからの大学における災害ボランティア育成、そして防災対策を展望すると、多くのボランティアを受け入れ、復旧復興支援に貢献したその手法が「石巻モデル」と評された宮城県石巻市の災害ボランティア活動から学ぶべき点が多い。
(1)石巻モデルの教訓
石巻災害ボランティア活動の拠点となったのは石巻専修大学である。これは石巻専修大学が石巻市と「防災協定(3月末実に締結予定だった)」を結ぶ関係にあったからである。多くの主要施設が被害を受けた石巻市にあって、広大なグラウンドと建物、知的資源を有する石巻専修大学は、災害ボランティア活動の中核となり得た。行政と大学の連携があったからこそ、多くのボランティアを受け入れることが可能になったのである。平時からの大学と行政の連携の重要性が再認識される教訓である。
(2)次の大災害に備えて
石巻モデルに見るように、大学と行政が連携し災害対応にあたる仕組みが有効であることについてはいうまでもない。しかし、いわゆる文書だけの防災協定ではなく、実のある対策として進めていくためには、アドバイス役として防災専門団体、災害NPO等との継続的な連携協力が重要である。
今後大きな地震災害が想定される首都圏や東海地方、そしてこれらの地域に限らず、多数の学生が在席する大学が、能動的に災害ボランティア育成や防災対策に取り組むかどうかは、今後の日本の災害対策に大きな影響を与えるだろう。
次の社会を担う大学生の多くが東日本大震災を目の当たりにし、何らかのボランティア活動や支援活動ができないかと行動を起こした。彼らの行動を、効果的な復興支援活動、何よりも彼ら自身の命を守り、災害に負けない社会づくりにつなげるためにも、本会による大学と行政、外部専門団体との連携事例が参考になれば幸いである。
(ふくしと教育2012年2月より)