防災ミニ講座

第24回 防災教育に使える教材④ 災害時の判断とコミュニケーションを学ぼう!

第24回-防災教育に使える教材④-
災害時の判断とコミュニケーションを学ぼう

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ) – 防災教育コンサルタント/社会福祉士-

災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長

【サマリー】
災害時には様々な判断が迫られます。誰に聞いても答えが分からない問題も時にはあるでしょう。そうしたときは、一人で抱え込まず、身近な人や問題に関わる人たちとコミュニケーションをとり、解決策を探していく力が求められます。本教材は「判断力」や「コミュニケーション力」、「思考力」を能動的な学習で養っていくことを目的としています。

 


 

【記事の構成】

  • 正答のない問いに、児童生徒をどう向き合わせるか
  • みんなちがってみんないい、で終わらない
  • 結論を導き、結果を想像させる
  • 教材「災害時のコミュニケーションを学ぼう」
  • 指導案と振り返り
  • 事例「ある小学校での校長先生と先生達の議論」

 

【正答のない問いに、児童生徒をどう向き合わせるか】

 防災教育の難しさは「正答のない問い」があることです。避難生活で起きるトラブルなどがその一例です。同じ質問をしても、ある人のある状況にとって「正しい」ことが、別の人、別の状況では「正しくない」ことがあります。僕はよく「きのこの山」と「たけのこの里」を例に出します。どちらが好きか聞くと、意見が分かれます。
 そしてこう続けます。「では、自分とは違う意見の人は"間違っている"と思いますか」。児童生徒は困惑しながらも「別に間違ってはいないけど・・・」と答えてくれます。「じゃあ、その人ともしどちらかひとつ、選ばなきゃいけなくなったとしたら、どうする?」と続けます。児童生徒は「・・・話しあう?」と答えてくれます。
 まず「人には人それぞれの考え方があること。例えそれが自分とは違っても、間違っているわけではないこと。どちらか選ぶなら話し合い=コミュニケーションが大切であること。」を伝えて、正答のない答えを学ぶ意識付けをします。

 

【みんなちがってみんないい、で終わらない】

 気をつけなければならないのは「きのこの山もたけのこの里も好きでいい」を結論にしないことです。お菓子の話なら好き嫌いで構いませんが、授業のテーマは「災害時の判断とコミュニケーション」です。なので、児童生徒にも理解しやすい代表的な例を挙げてみます。
  「体育館が避難所になっているとき、救援物資のお弁当が届きました。でも、お弁当の数が足りません。ある人は、傷んでしまうから足りなくてもすぐ配ろうと 言いました。ある人は足りないと取り合いになって大変だから、足りないうちは配らないほうがいいと言いました。どちらの人が、正しいと思いますか。」
 "みんなちがってみんないい"とはいきませんね。配るか、配らないかを決めなくてはいけません。もし意見が違う人がいたら、お互いに話し合って、結論を出さなくてはならないのです。

 

【自ら考え議論し、結論を導き、結果を想像させる】
 → アクティブ・ラーニング等への応用

 防災教育で大切なことは、児童生徒に「行動する」ことの大切さを伝えることです。考え、話し合うことは重要ですが、それはあくまで手段であり目的ではありません。具体的に命 や生活、人生を守るため「行動する」ことが重要です。この授業で正答のない問いを他者と話し合いながら考え、結論を導くという過程を経験させます。そし て、その結論がどんな結果につながるのかを、班の中や個人で「想像=シミュレーション」させます。自分(たち)の行動の結果を想像しながら、問いに取り組むという過程を経験することが、児童生徒の学習成果につながります。
 
正答のわからない問題をテーマでありながら、児童生徒でも解決策を考えられるような問題を設定することで、児童生徒の能動的な学習を促すことができます。アクティブ・ラーニングや調べ学習、プロジェクト学習等に応用することができます。


【教材「災害時のコミュニケーションを学ぼう」】

この授業で使用する教材は以下のプリントだけです。問題によって用紙が分かれていますが、問題を1つに絞れば1枚のプリントで済みます。使い方にはいくつかのバリエーションがありますので、それぞれの場面で使いやすいようにご利用ください。Microsoft-Word形式ですので、ご自由に編集していただいて構いません。

【ワークシート】災害時のコミュニケーションを学ぼうver1.0
※MicrosoftWord2013で作成しています。クリックしてダウンロードしてください。

 

【指導案と振り返り】

この授業で使用する指導案です。こちらもWord形式ですので、ご自由に編集してご利用ください。

【指導案】災害時のコミュニケーションを学ぼうver1.0
※MicrosoftWord2013で作成しています。クリックしてダウンロードしてください。

 

<指導例>

  1. 班ごとにワークシートをランダムで配布して話し合い中心に行う
  2. ひとりひとりにワークシートを配布して、自分の考えをまとめさせる
  3. 夏休み前などに配付して、テーマに関して過去の災害事例などから調べ学習をさせる
  4. 宿題として配付して、家族の意見なども聞いてくる
  5. 全校集会の場でスライドや講話のなかで活用する

 

<振り返りシート>

【振り返りシート(発達段階不問)ver3.0
※小学校低学年~教職員、PTA研修まで対応する共通の振り返りシートです。

 

指導員向け事例紹介「ある小学校での議論」

  よく研修でご一緒する東日本大震災発災(当時)時、校長先生だった方は冒頭の「答えが分からない問題」に直面されたそうです。校長先生ご自身は関東圏の出身で 「校舎の上に逃げる」ことを考えており、マニュアルもそのようにしていたそうですが、地元出身の先生たちは「高台への避難」を強く意見したそうです。そこで「最終的な判断は校長が行う」と決めたすぐ後に、東日本大震災が起きました。校長先生は、あまりの揺れの大きさから、自分のこれまでの考えやマニュ アルを捨て「高台へ逃げる」ことを選択しました。そして、その決断に先生や生徒も従いました。結果として帰宅していた生徒と、教員1名が犠牲となってしま いましたが、それ以外の生徒や教員は助かりました。

 事前の備えにおいてもコミュニケーションは大切です。でも、その場になったら状況を判断して考える力、それを他の人に伝えて理解してもらう力が、いかに大切であることが分かるエピソードです。


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