防災ミニ講座

第20回 防災教育に使える教材③ 災害状況を想像する力を身につけよう

第20回 防災教育に使える教材③
災害を想像する力を伸ばすプリント

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ) — 防災教育コンサルタント/社会福祉士—

災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長
第3回国連防災世界会議防災教育日本連絡会 事務局次長

【サマリー】

適切な防災対策や災害対応行動を検討するためには「災害状況」を想定することが不可欠です。本講で紹介する教材は、保育園・保育士に対する防災イマジネーションの形成を目的として、東京大学生産技術研究所の目黒先生による「目黒メソッド(後述)」を分かりやすくアレンジしたものです。

目黒先生・研究室の方には教材の研究・開発過程において、保育園等での実践に関わらせていただき、学校教育への応用についてもご協力いただきました。様々な学校等での授業や事後学習資料として用いた経験から、教材をご紹介させていただきます。

 


プリント1枚で防災教育「災害状況を想像する力を伸ばす」

適切な災害対策・防災活動のためには「災害によってどのようなことが起きるか」を想像する力が大切です。今回は「災害状況を想像する力を伸ばす」ことを目的とした教材をご紹介します。この教材は、東京大学生産技術研究所目黒研究室・東京都の協力により、同研究室が作成した教材「目黒巻」を中学校〜高校における防災学習用にアレンジしたものです。

 

なお、本記事に該当する内容は先生のための教育事典「EDUPEDIA」にも掲載されています。

防災一斉体験学習(目黒巻を用いた事後学習) EDUPEDIAホームページへ

 

目黒巻とは

東京大学の目黒先生が考えた「目黒メソッド」という災害状況想定から対策を考える手法を教材化し、その教材の形が巻物のように見えることから「目黒巻」と呼ばれています。災害後の状況を想像することで、災害前にどんなことが必要かを考えることが目的です。こちらのサイトよりダウンロードできます。

http://risk-mg.iis.u-tokyo.ac.jp/meguromaki/meguromaki.html

 

「災害状況を想像する力を伸ばす」授業で使う教材

指導要領、生徒用説明資料、授業用目黒巻は下記(EDUPEDIA)よりダウンロードできます。

・指導要領(事前に教員・指導員は確認してください) 添付ファイル

・生徒用説明資料(必要に応じて配付してください   添付ファイル

・防災授業「災害状況を想像する力を伸ばす」プリント 添付ファイル

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授業用プリント(表面)

 

授業の準備

①座席を班学習の形式になるように配置します。

②プリント(上記)と生徒用説明用紙を配布してください。

 

授業の流れ(学習目標提示と展開)

1.ワークシートについての説明例文

これからプリントを使って「自分が災害(地震や台風など水害でも可)にあった」ことを想像しながら、物語を書いてみます。プリントに「数分後」「数時間後」「数日後」と書かれていますね。その時間、自分がどんなことをしているか、まわりがどんな状況になっているかを書き込んでいきます。災害が起きた後のお話なら、どんな状況を想像してもだいじょうぶです。良いこと、悪いこと、びっくりすること・・・自由に想像して書いてみましょう!

【POINT】あまり難しく考えず、思いついたこと、想像したことを書くよう指導します。正しい状況を想像しようとすると、なかなか書けなくなってしまいます。但し、これまでに様々な防災教育を実践している場合は別です。その場合は学習成果を評価するという視点を持ち、学んだことを書くよう指導します。

 

2.プリントへの記入時間

まず、氏名と設定を記入させます。最初の記入(15〜20分)は個人で行わせ、班の中でお互いに話し合わせないようにします(後ほど話し合いの時間を設けるため)。あまり記入がはかどらない場合は、近くの生徒同士で話し合うことも許可します。

 

★状況設定例★

プリントの左上にある「状況」の設定例です。

震度:  7    ※阪神淡路大震災と同じくらいです

季節:  冬    ※とても寒い日です。

天候:  晴    ※雨の心配はなさそうです。

曜日: 水曜日

時刻: 12:30 ※お昼休みの頃です。

あなた:自分の名前と、家族のなかでの立場(姉・妹・兄・弟など)

家族:いつもの水曜日のお昼、家族がどこで何をしているか書きましょう。

例)父は**で仕事、母は自宅、姉は 大学にいる・・・など

設定は自由に変更することができます。生徒に学ばせたい状況を工夫して設定してください。生徒自身に設定させることも可能です。

【POINT】記入させる上でのフォロー、発問の例

・地震が起こったら、君たちはいつ、どこにいけばいいのだろうか。

・家族とはいつごろ連絡が取れるだろうか。

・電車やバス、電気、ガス、水道などはどうなっているだろうか。

 

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(プリントの記入例:小さな子どものいる母親の例、様々な課題が出てきます)

 

3.話し合いの時間

班の中でお互いにプリントを見せ合って、話し合いをします。「書けていない」人を責めたり、明らかにおかしなことを書いている生徒を批判したりしないよう、気をつけてください。もし、問題があったら「どうやったらそれが解決できるのか」という話になるよう、指導していきます。

 

4.まとめの時間(伝えていただきたいこと)

◆ 何か問題が起きたら、どうすれば解決できるか考えることが対策につながるということ。

◆ 設定条件を変えて、繰り返し行うことが災害を想像する力を高めてくれること。

◆ 発災後について考えたら、発災前にできることも併せて考えて、普段の防災に活かしていくこと。

◆ その他、先生方が体験学習等を通じて感じたことなどもお伝えください。

 

なお、記入したプリントは一度回収して、目を通していただくと生徒の災害に対する考え方などを読み取ることができ、とても参考になります。できれば、生徒には返却してあげてください。


最初は「ウチの生徒は防災について勉強もしてないし、こんなに書けるだろうか」と思われる先生が多いのですが、実際に書かせてみると、「思っていたよりもたくさん書いていたので驚いた」というご感想をいただきます。

 

もちろん、個人差がありますので書けない生徒もいますが、重要なことは「想像力をはたらかせてみる」ということにあります。書けない生徒も、話し合いを通じて「こういう考え方をすればいいんだ」と気付くことがあります。できれば、防災教育の導入時に一度実施していただき、防災教育のまとめの時期にもう一度実践していただくと、教育効果を実感できるかもしれません。

 

ぜひ、学校や地域等での防災教育にご活用ください。

 


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