第4回 防災教育に使える教材-HUG(避難所運営ゲーム)-
宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)・社会福祉士
災害救援ボランティア推進委員会 主任/(社)防災教育普及協会 教育事業部長
【サマリー】
「防災教育をやらなければいけないけれど、ノウハウや経験がないから分からない、とお困りの方も多いかと思います。そこで、今回は手軽に取り組むことができ、いろいろな学びへとつなげることのできる防災教材”HUG”についてご紹介し、実際に体験した先生のお話も伺います」
●本講の内容
1)HUGってなに?
2)実施する際の注意点
3)体験された先生にお話を伺いました
4)学校の地域連携を進めるきっかけに
【1】 HUGってなに?
▼HUG(ハグ)はHinanjo Unei Game、避難所運営ゲームの略称です。そのままですね!静岡県が平成19年に開発したもので、きちんと商標登録もされています。詳しい内容については県のホームページからご覧ください。以後、本講ではHUGについてある程度、ご理解いただいたことを前提にお話を進めますので、まずは一度、ご確認をお願いします。
http://www.e-quakes.pref.shizuoka.jp/manabu/hinanjyo-hug/index.html
(静岡県地震防災センター HUGのページ)
【2】 実施する際の注意点
▼さて、では実際にHUGを教員研修で実施してみたい、あるいは生徒とやってみたい、ということになったとします。本項ではその際の注意点について簡単にまとめてみたいと思います。
☑ 「何のためにHUGを使うのか」学習目標をはっきりさせる
HUGはプログラムとしての完成度が高く、極端なことを言えば誰でもすぐに楽しみながら実施することのできる教材です。だからこそ指導側、HUGを扱う側の認識が重要です。そのヒントとして「何のためにHUGを使うのか」という学習目標をはっきりさせるということに気をつけてみましょう。
例えば、対象は学校の先生ですか。地域住民ですか。生徒ですか。彼らは何を知っていて、何を知りたいと思っているでしょうか。指導者側、扱う側としては何を一番、伝えたいと思っていますか。このあたりを一度整理して、それがしっかり達成できるように意識して扱うことが重要です。
☑ ゲームは手段であって目的ではない
避難所運営ゲームの名前のとおり、HUGは避難者に見立てたカードをスピーディに配置していくことで、実戦的な雰囲気を感じられる教材です。一方で「楽しそうなのだけど、残念だなぁ…」と思うケースは”手段が目的化してしまっている”場合です。カードを配置するという作業は、ゲームを進行していく手段でしかありません。ゲームが盛り上がってくると、「カードは人である」ことを忘れてしまいがちです。カードを置いていくことに夢中になって、先に示した「何のためにHUGを使うのか」ということを忘れないように(忘れさせないように)しましょう。
☑ 振り返り、共有、そして反省を
HUGを実施すれば、ほとんどの場合、凝った工夫をしなくても「避難所運営の難しさ」をご理解いただくことができるかと思います。ただ、そこで留まるのではなく、一歩進んで「では実際ならどう”難しさ”に対応しますか」という課題解決について、考えを進めていただきたいところです。参加者同士での振り返り、共有の時間、うまくいった例や失敗した例をもとにした反省の時間を、スケジュールの中に組み込むことを忘れないようにしてください。
【3】 HUG研修を企画した先生にお話を伺いました
実際にHUGの研修を実施された埼玉県川口市立小谷場中学校の養護教諭、深井先生にお話を伺いました。
① 研修で避難所運営ゲームを実施することになったきっかけは何ですか。
大学時代に防災について勉強させていただいたことがきっかけです。養護教諭の集まりの中で「HUG」を実施する機会がありました。実際にやってみると難しいことや悩むことがたくさんでました。養護教諭は管理職ではないのですが、児童生徒の健康をつかさどる職業です。災害時の健康管理はとても重要になってきます。その養護教諭が避難所を運営するためにはどうしたらいいのか普段からシュミレーションしていないと、いざといったときに動けないと思います。1人の養護教諭の背景には、何百人、何千人の生徒がいます。このゲームを通して、少しでも多くの養護教諭に考えてもらえればと思い、ゲームする話が持ち上がりました。
② 実施されてみてのご感想や、参加された先生方の反応はどうでしたか。
ゲームなので、グループによって異なったことを感じたと思うのですが、全体的に避難所を運営する難しさについて実感してもらえたような気がします。ドキドキした!緊張した!といった声や、ああすればよかった、こうすればよかったと反省の声もありました。また、この学びを他の養護教諭にも伝えたいと感じてくださった先生もいらっしゃいました。
③今後、学校現場でどんな取り組みが求められると思いますか。
学校や地域によって、防災に対する現状は異なるように感じます。その為に一概にこうした方がと言い切ることはできませんが、全体的な印象として防災教育が足りないように思います。学力向上、授業確保が叫ばれる中で、学校現場だけに防災教育を求めるのも厳しいところもあります。またマスメディアの普及により、防災に関する知識を持っている生徒や教職員は増えてきていたり、あらゆる地域で防災活動が少しずつ活発になってきたりしているところもあります。しかし、現状として知識には個人差があったり、知識だけにとどまり、防災へ行動を移している人が少なかったりと課題も多いです。そこで今後学校現場では、あらゆる関係機関と連携し、防災に対する実践的な体験を行う取組が求められると思います。
深井先生、ご協力ありがとうございました。
【4】 学校の地域連携を進めるきっかけに
深井先生のお話にもありましたが、今後学校現場においては防災について実践的な体験を含めた取り組みが求められることになります。HUGは机上のゲームですが、ぜひ実施された後は(あるいは、実施される前でも!)学校で避難所運営の体験型学習や、地域住民と連携した避難所運営訓練などにチャレンジしていただきたいと思います。
実践的な体験を踏まえることで、HUGはより良い教材として活用することができるようになります。避難所運営訓練を含めた、防災教育の実践例については「防災教育チャレンジプラン」ホームページ等で、事例を探していただくこともできますので、ぜひ参考にしてください。