防災ミニ講座

第14回 防災教育のすすめ ~命を守る防災教育の考え方と実践事例-後編-~

第14回 防災教育のすすめ ~命を守る防災教育の考え方と実践事例-後編-~

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士

災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長 兼務

【サマリー】
学校での防災教育や地域での防災学習に取り組みたい方から「必要なのは分かっているけれど、何から始めたらよいのか分からない」「自分はやる気があるけれど、周りが協力してくれない、参加してくれない」と言った声をよく聞きます。本講は「地域防災インストラクター(※災害救援ボランティア推進委員会主催の上級講座を修了し、指定の課題をクリアした方)」希望者を対象とした講義内容を中心にご紹介します。

 

【注意事項】
本講は災害救援ボランティア推進委員会第16期上級講座における科目「地域連携プログラム」における講義内容を整理したものです。概ね講義内容に準じますが、筆者が一部公開に適さないと判断した部分は省略・割愛しています。何卒ご了承ください。

 


●本講の内容(前編)

はじめに

1 なぜ防災教育(防災学習)は必要なのか

(1) 防災教育(防災学習)実践現場が抱える課題と教科⼊りへの議論
(2) 精神論、理想論ではない具体的⼿段の模索
(3)「忘災」への対策が原点であり終着点
(4) 釜⽯東中学校の事例検証

2 命を守る防災教育(防災学習)の考え方

(1) 防護動機理論に基づく2つのポイント
(2) 「やらない・できない・興味ない防災」に至る意志決定プロセス
(3) “最善を尽くせ”とはどういうことか

3 学習指導計画と目標設定

(1) 段階的で継続的な防災リテラシ向上
(2) 文科省による防災教育学習目標
(3) 学習成果と目標行動の関係

 


●本講の内容(後編)

4 防災教育(防災学習)実践事例

(1) 防災教育実践手法マトリクス
(2) 体験「うさぎ一家のぼうさい荷作り」
(3) 事例紹介「ぼうさい探検隊」

5 防災教育(防災学習)のすすめ

(1) 防災教育の評価分析と科学的根拠に基づく実践
(2) 防災教育実践の標準化に向けて

おわりに


4 防災教育(防災学習)実践事例

さて、前編では防災教育を取り巻く現状と課題、総論についてご説明させていただきました。後編では、具体的な防災教育(防災学習)の実践事例についてご紹介させていただきます。

 

(1) 防災教育実践手法マトリクス

図-1は、防災教育(防災学習)の実践手法をマトリクスで整理したものです。防災教育(防災学習)の実践手法は、大きく4つの手法に分類することができます。

☑ 講話型 (講師による講演、講話のみ)

メリット:手軽にできる

デメリット:良くも悪くも授業者(講師)次第、外部講師(特に著名な講師)には予算がかかる

事前学習のポイント:演題・テーマに準じた基礎知識(前提知識)を学ばせる

事後学習のポイント:演題・テーマに基づく講師が伝えた内容を理解しているかどうかの確認

 

☑ 演習型 (ワークショップやグループワーク、街歩きなど)

メリット:主体的な思考を促せる

デメリット:授業者(教員等)に知識や経験、指導上の工夫や配慮も必要になる

事前学習のポイント:テーマに対して共通認識を持たせる、誤解のないようにする

事後学習のポイント:他のクラスメート、グループでの意見をよく聞いて、共有する

 

☑ 避難訓練型 (避難訓練、消火訓練、応急手当訓練など)

メリット:楽しく学べる、慣れている / デメリット:マンネリしがち、消防や外部団体に丸投げになりやすい。

事前学習のポイント:基本的な安全行動ができているか、理解しているかを確認する

事後学習のポイント:学習した行動や、想定した災害に適切に対応できるかを確認する

 

☑ 総合型 (1~3つの型式を組み合わせて実施するもの)

メリット:組み合わせで効果が高まる / 準備・実施に際して人的、時間的、予算的な負担が大きくなる。

事前学習のポイント:演題・テーマに準じた基礎知識(前提知識)を学ばせる

事後学習のポイント:学習した行動や、想定した災害に適切に対応できるかを確認する

 

防災教育実践マトリクス

図-1

 

防災教育(防災学習)実践を考える際は、これから実施する(予定している)内容が、どの分類に該当しているかを確認しましょう。それぞれにあるメリットやデメリット、事前学習のポイントを押さえておくことで、より効果的な防災教育(防災学習)を実施することができます。

 

(2) 体験「うさぎ一家のぼうさいグッズえらび」

うさぎ一家の防災グッズえらびについては こちら の記事をご覧ください。

 

(3) 事例紹介「ぼうさい探検隊」

ぼうさい探検体については こちら をご覧ください。

 

5 防災教育(防災学習)のすすめ

(1) 防災教育の評価分析と科学的根拠に基づく実践

[参考資料] 防災教育共通評価シート集計票(PDF型式)

「防災教育は、本当に命を守ることにつながるのか」という大変難しい質問については後述しますが、まずは「防災教育実践を阻む4つの壁」についてご紹介します。

 

① 目標を立てた時点でコミットメントが低く行動が起こらない

やろうとは思うけれど、他にもやらなければいけないことがあるしな、と思ってしまう。

[対策]  「この日にやる」というスケジュールをはっきりと決めてしまいましょう。内容は後から考えることもできます。

② やる気はあるものの、何をしたらいいのか分からない

やろうと思って行動を起こすけれど、まず何から手をつけたらいいのか分からず動けない。

[対策]  そのテーマに沿った教材や指導案がないか探してみましょう。消防や外部団体に問い合わせても良いでしょう。

③ 知識・スキルをどう使えばいいのか具体的に分からない

何から手をつけるかも決めたけれど、教える上での知識や経験・スキルに不安がある。

[対策]  本、テキスト、資料や教材を読む、研修に参加する、経験のある方に相談する、などが考えられます。

④ 変化を起こせない(一歩が踏み出せない) →  勇気の不足

知識やスキルも充分にあるけれど、本当にそれでいいのか、今ひとつ自信が持てない。

[対策]  参考資料をぜひご覧ください。防災教育(防災学習)は、多くの児童生徒、一般の方に良い影響を与えることが集計結果から分かります。

 

群馬大学による研究結果では「リスクを認識している者ほど、他者に対してリスク回避を働きかける傾向にある」、ということが分かっています。つまり、防災教育や防災学習によって、リスク(災害等の危険)とその対策を認識する人が増えれば増えるほど、地域・学校、そして家庭の防災力を高めることにつながっていきます。それが例えどんなにわずかな時間の授業や講習であったとしても、継続的に続けていくことが、防災力向上につながります。

(2) 防災教育実践の標準化に向けて

防災教育普及協会では、今後優れた防災教育の実践事例やプログラムの「標準化」を目指しています。

国内には様々な防災教育の実践事例やプログラムが、それらをすぐに真似て実践できる学校や地域はごく少数かと思います。ほとんどの防災教育・防災学習が「その地域・その人」に根付いたものであるため、他の地域・他の学校がすぐに応用することが難しいのが現状です。

どんな地域の、誰もが扱える汎用性があり、かつ「命を守る」ことにつながる防災教育・防災学習実践の教材やプログラムを整理し、公開していく「標準化」を、今後防災教育普及協会を中心に進めていくことになります。

まだまだ時間はかかりますが、ぜひ今後の会の動きにもご注目いただければ幸いです。

ホームページリンク 一般社団法人防災教育普及協会

 


 

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