第7回 学校防災教育における学習計画・指導案づくり-前編-
宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ)、防災教育コンサルタント/社会福祉士
災害救援ボランティア推進委員会 主任
【サマリー】
防災教育は「教育」である以上、ある程度の指導計画や指導案が必要になります。なかなか具体的なイメージが作れず、苦心される先生方も多いかと思います。そこで、ある中学校での具体的な防災教育を事例に、指導計画・指導案づくりについて考えたいと思います。前編では、まず防災教育の企画を考えてみます。後編で具体的な指導案づくり等に入ります。
※文中でPDFファイルをダウンロードしていただきます。学校や職場のパソコンにより、ファイルダウンロードができない場合は事務局までお気軽にお問い合わせください。
●本講の内容
はじめに
1 防災教育実施企画書をつくってみる(前編)
(1)授業テーマはなんだろう?
(2)学習者は誰だろう?
(3)テーマの選択理由はなぜだろう?
(4)学習目標はどうしよう?
(5)前提条件はなんだろう?
2 課題分析をしてみる(以下は後編にて)
(1)課題分析図を書いてみる
3 学習指導案をつくる
(1)教材
(2)指導方法
(3)指導過程
4 評価ワークシートをつくる
5 進行表をつくって他の教員(担当者)と共有する
はじめに
防災教育を考えるときに、3つのポイントがあります。
①何を知っている(できる)のか【前提条件】
・・・> 既に知っていることを教えても効果は低く、難しすぎることも同様です。
②何を教えたい(させたい)のか【学習目標】
・・・> 児童生徒を「成長させたい」ポイントをしぼります。
③それを知った(できた)のか【評価】
・・・> ②が達成できたかどうか、しっかり評価します。
指導計画や指導案をつくることで、①~③が見えてきます。最初は難しいかもしれません。ですが、きちんと計画をたてて行い、評価をした授業は必ず次につながります。本講を参考に、ぜひ一度チャレンジしてみてください。
Ⅰ 防災教育実施企画書をつくってみる
(参考ファイル) 1_防災教育実施企画書
防災教育全体のイメージ作りのために「防災教育実施企画書」をつくってみましょう。いくつかの項目に分けて順番に考えます。本講で紹介する企画書はあくまで一例ですので、それぞれの様式、やりやすい方法でつくってみてください。
(1)授業テーマはなんだろう?
まずは「授業テーマ」を考えてみましょう。これは学習目標にもつながりますが、抽象的でも構いません。例えば「命を守れる生徒になろう!」とか「助け合える●●生になる!」とかでもいいでしょう。できれば生徒や保護者など、誰にでもわかるようにシンプルでキャッチーな表現がいいと思います。まず生徒に伝えることになるので、授業者(教員、外部団体)が、一番伝えたいメッセージを込めるのがポイントです。
(2)学習者は誰だろう?
本講の資料は、実際にある中学校で実施した【全校生徒対象の防災講話+一年生対象の防災ゲーム】という授業の資料をベースにしています。従って学習者は【中学校全校生徒+中学校1年生】となります。これはイレギュラーなケースで基本的には1年生~3年生など、学年単位になるかと思います。
防災教育の実施時期も関係します。例えば5月~6月に実施する場合、1年生はほとんど小学生に近くなります。逆に年明け以降なら、中学校2年生とほぼ変わらないでしょう。このあたりの判断は、先生方がよくご理解されているかと思いますので、特に外部の方は先生にしっかり確認することが大切です。
(3)テーマの選択理由はなぜだろう?
授業者がテーマを選んだ理由を考えます。何か印象に残る話を聞いた、印象に残った出来事があったなど、授業テーマを設定するに至った理由が必ずあると思います。これは実際に授業を行う際に児童生徒に伝えることもあります。「●●ということがあったから、君たちに●●を教えたいんだ」と伝えることで、児童生徒も「なぜそれを学ぶ必要があるか」を整理しやすくなります。自分の想いをしっかりと指導計画に落とし込むために、難しいとは思いますが一度整理してみましょう。
(4)学習目標はどうしよう?
さて、一番の本題となるのが学習目標です。ここでのポイントは「なるべく具体的にする」ことです。「理解する」とか「わかる」というのも悪くはないのですが、何が、どうできたら「理解した」「わかった」と言えるのかを考える必要があります。例えば、参考ファイルでは
・災害時に中学生(自分)にできる(できそうな)ことを、その理由も含めて述べることができる。
・災害時を想定した問題を見て、状況を読み取り、自分なりの判断を示すことができる。
という2点を示しています。授業テーマが「助けられる側から助ける側になる」ということですので、実際そのようになるためにはまず「自分にできることをする」という行動が必要になります。従って「自分に何ができるか」を理由も含めて示せることが必要になると考え、学習目標として設定しました。また、自分にできることは災害時の様々な状況によって変化していきます。その変化する状況を読み取り、その中で自分がどのように判断し行動するかも重要ですので、これも学習目標として設定しました。
この2点をクリア(達成)した生徒なら「助けられる側から助ける側になる」ことができるだろう、と考えます。もちろん、絶対にそうなれるとは言い切れませんが、少なくとも自らの判断で行動できるひとつの基準になります。
(5)前提条件はなんだろう?
最後に「前提条件」を考えます。これは対象となる児童生徒が「現時点で何を理解しているか」を整理するために行う作業です。既に理解している内容(東日本大震災で津波が起きた、たくさんの方が亡くなった等)の指導を学習目標に設定しても、防災教育としての成果は限られてしまいます。従って、これは「知っている」という前提条件のもとでさらに付け加えたい知識や技能を教えることが大切です。
(後編に続く)
前編はここまでとなります。
もしはじめて「防災教育を担当することになった」という先生方で、どのように進めたらいいか分からないという方がおられましたら、お気軽にご相談ください。先生方も、我々のような外部からサポートする側も、児童生徒も「一緒に学ぶ」という姿勢で取り組むのが、よい防災教育につながるのだと考えています。
先生方だけでなく、地域の方、NPOの方など、様々な方が防災教育に携わられることと思います。限られた時間で防災を伝えるのはとても難しいことですが、大切な子供たちの命のためにも「やってよかった!」と思える防災教育ができたらいいですね。
お問い合わせは 03-6822-9900 まで