防災ミニ講座

第22回 避難所運営ゲーム(HUG)研修・授業実施のポイント

 

本記事は静岡県が開発した教材「避難所(H)運営(U)ゲーム(G)」を用いた研修会、授業を実施するにあたってのポイントをまとめたものです。実施の環境や条件によって適切な実施方法などは異なる場合がありますので、予めご了承ください(2015年4月現在)。

本記事についてのご質問やご相談が増えております。大変お手数ですが、お問い合わせは こちらのメールフォーム  からお願い致します。順次担当より折り返しご回答申し上げます。


避難所運営ゲーム(HUG)について

◯ 避難所(H)運営(U)ゲーム(G)、一般住民向けシミュレーション型訓練。
◯ 目的:避難所で起き得る状況の理解と適切な対応を学ぶ。
◯ 概要:ある市の避難所運営を任されたという想定の下で、次々にやってくる避難者の状況や要望を考慮しながら、迅速かつ適切に対応する術を学ぶゲーム様式の教材。
◯ 配役:進行役1名、プレーヤー最大9名/班程度(うち記録係1名、発表担当1名など)。

 

研修・学習目標の考え方

HUGを使った研修や授業をより効果的にするための、研修・学習目の考え方についてご紹介します。具体的に設定したほうが指導者の方も参加者も理解しやすいかと思いますが、実施環境や参加者の状況に合わせてご検討ください。

 

児童生徒対象「避難生活や平時の備えについて考えるきっかけとして」

児童生徒が保護者や教職員と共に、避難者として避難所運営に関わることも考えられます。HUGを使うことで避難所運営や避難生活にどんな難しさがあるか、自分たちに何ができるか、普段からどんな備えをしておいたらよいかといった点について、具体的に考えるきっかけをつくることができます。

教職員対象「マニュアルのチェックや施設利用方法の検討手段として」

学校独自の、あるいは市区町村等から出された「避難所運営マニュアル」などがある場合は、HUGを使うことでマニュアルに記載された通りの運営ができるかどうかを確認することができます。とくにマニュアルなどが整備されていない場合は、どの施設・教室を何のために開放するのかなどを検討するための手段としても有効です。

自治体職員対象「避難者の特性に配慮した運営方法を考える」

HUGのカードには様々な避難者が想定されています。乳幼児や妊産婦、高齢者、障害者、外国人、傷病者や遺児なども含まれています。自治体職員として公平・平等の考え方は大切にしながらも、配慮が必要な方にはどのように対応したらよいのかを限られた時間で考え、話し合うことで、その後のマニュアル作りや既存のマニュアルの改善などに活かすことができます。

自主防災組織対象「住民主体の避難所運営を学ぶ機会として」

避難所の運営主体は、自治体職員や施設職員(学校教職員や、体育館の指定管理者等)ではなく、あくまで住民(避難者)主体である、というのが原則です。とはいえ、施設を利用する以上は、何でもかんでも住民(避難者)で決めてよいというわけでもありません。もし施設でマニュアルが作成されていれば、それを用いて研修を行うことがよいでしょうし、作成されていなければ、住民目線で実施した結果について施設の方と共有し、実践的なマニュアルづくりにつなげていく、といったこともできます。

 

所要時間と定員の目安

2時間から3時間程度を推奨します(教材の使い方を簡略化すれば45分程度でも可能です)。定員については教材さえあれば多くても少なくても、それほど影響はありません。講師や指導員が1名の場合、全体を細かくチェックできるのは50人くらいまででしょうか。550人以上で同時に行う場合は、補助的な指導員やサポートスタッフを用意するなどの工夫が必要な場合もあります。

 

実施環境と使用備品

島形を作り、1班5〜7人くらいで行います。机は学校等にある長机を2〜3つ合わせたくらいがちょうど良いです。説明や指導、状況付与でプロジェクターや黒板を使用する場合もありますので、配置は下記イラストのようにすると参加者が見やすくなります。HUGの教材セットのほか、水性マーカーや付箋紙などもあると作業で役立ちます。 new_hughaichi

事前準備のチェックポイント

HUGを実施する前に行う事前準備のチェックポイントを整理してみました。必要な項目を確認していただくと、スムーズに運営できます。

◇ 日時や会場は問題ありませんか。

・2時間~3時間の実施時間は確保できていますか。
・2時間以下の場合は講師や指導員の方と、詳しく打ち合わせることをお勧めします。
・会場は可動式の机、椅子になっていますか。
・プロジェクターやスクリーン、ホワイトボードなどは使えますか。
・1班は5~7名くらいとして、班の机は長机2~3つくらい必要です。
・レイアウトは参加者から講師や指導員、スクリーン等が見やすくなっていますか。

◇ 教材や資料は用意していますか。

・HUGのカードセットや間取り図のデータは講師から借用するか購入しておきます。

◇ 避難所運営マニュアルやガイドラインはチェックしましたか。

・自治体や学校でマニュアルやガイドラインを発行していたらチェックしておきます。
・講師、指導員を外部に依頼している場合は、マニュアル等の情報を共有しておきます。
・とくに作成されていないようであれば、ぜひこの機会に作成を検討してみてください。

 

実施内容について

こちらで紹介する内容は教職員や地域住民向けの実施内容です。

 

手順

  1. 進行役が避難者の情報等が書き込まれたカードや、何らかの事態発生を知らせるカードを読み上げる。【実際に避難者が来たと想定してください】
  2. プレーヤーは読み上げられた情報に基づき、避難者カードの場合は、配置を決め、その場所にカードを置く(図参照)。事態発生への対応も決定する。
  3. 進行役は、プレーヤーに時間的余裕を与えることがないように次々にカードを読み上げる。
  4. ゲーム終了後、避難者の配置や事態対応の是非について話し合い、よりよい避難所運営方法を学ぶ。


(図1 HUGカードと各種図面の使用例)

 

演習の前提条件(一般的な例、首都圏)

  • 地震発生:[ 季節 ]の [ 平日・祝祭日 ] 、[ 午前・午後 ]、[ 時間  ]。この地区では一部で最大震度7を観測。
  • 生徒は不在の想定、数名の教職員が初動対応にあたっている。
  • 参加者は発災から [ 時間 ]後に集まった、住民や教職員(管理職)、自治体職員等の立場になります。
  • 同じグループの人は、いちはやく学校に到着したつもりで、次々にやってくる避難者の状況や要望を考慮しつつ対応する。突発事態にも対応する。
  • 任された避難所:学校が避難所になったと想定します。管理職や他の教員は出勤しておらず、自治体担当職員も駆けつけることができない状況(つまり、規定のリーダーは不在の状況)と考えてください。
  • カードの大きさは、ほぼ避難者1人分の面積に相当します。避難者をどこに割り当てるか決めて、そこに置いてください。自動車やペットなどは、ポストイットに記入して貼付するか、別添シートに直接記入してください。
  • 記録係は質問への回答や、とった対応、出てきた疑問や意見等を記入してください。
  • その他、細かな設定は各グループで決めていただいて結構です。

 

避難所となる学校・地域の状況設定例

  • 電気:停電しており、復旧の見通しはたっていない。
  • ガス:供給が停止されている。
  • 水道:断水している。
  • 電話:携帯電話は輻輳でかからないが、メールは使える(遅れる)。学校の職員室に設置してある電話は災害時優先回線で地震時でも使える状態。
  • トイレ:水が流れない、出ない。
  • 被害:体育館や教室等、校内に大きな被害はない。一部の教室ではガラスの破損などが見受けられた。
  • 備蓄品:(実際に参加者の所属校で用意されているものがあればそれを参考)

 

HUGをはじめる前の説明事項例

  • 役割(リーダー、記録役、進行役)を決めてください。
  • A4の教室用紙は使っても使わなくても構いません。
  • 中学校や高校の場合は教室を3年生までとし、校内図で4年生以上の教室を使わないようにしてください。
  • ポストイットは状況への対応やメモ、記録にご利用ください。
  • 記録役は状況への対応結果を適宜記録してください。
  • リーダー以外の役割は交代しながら進めてください。
  • カードは重ねて置かないでください(1人1枚のスペースを確保)。

 

HUG研修実施後の指導ポイント例

  • HUGで学ぶこと:起きる状況の理解と適切な対応を考える
  • 時間経過とともに、避難所の役割も変化します。
  • HUGは、初期の避難所運営に関わる問題を理解してもらうための教材です。
  • 事前の避難所運営マニュアルの作成、検証、訓練が重要です。

 

  1. 避難所の開設は誰が行うか。
  2. 受付の設置、避難者リストの作成、被害まとめをどうするか。
  3. 避難者の適正配置、スペース確保ができるか。
  4. 屋外避難希望者等への対応ができるか。
  5. 食事や飲料水、毛布等の提供はどうするか。
  6. 傷病者対応や救助要請への対応はどうするか。
  7. 救援物資の要請と管理方法をどうするか。
  8. 情報提供や注意事項の伝達ができるか。
  9. 避難所運営ルールの取り決めはできるか。
  10. 避難所の環境整備等をどう行うか。
  11. 市災害対策本部との連絡、要請と対応はどうするか。
  12. ボランティアやマスコミへの対応はどうするか。
  13. 避難所運営本部の設置と組織化をどうするか。 など

 

振り返り

HUGの実施後、できれば15分~30分ほど振り返りの時間をとります。「どんな課題、気付きがあったか」や「どんな備えや行動が求められるか」といった点について、参加者同士で話し合ってもらうと、様々な意見が出てきます。できる限り具体的な課題、対策を挙げてもらうようにするのがポイントです。

 

HUG実施時のまとめ(例)

小学校、中学校、その他の一部施設は避難所として市区町村から指定されてはいるものの、あくまで教育等のための場であり「生活の場」として考えられている施設ではありません。その施設としての第一義的な役割、学校であれば「児童生徒や教職員の安全・安心」等が揺らぐような体制や運営を避けるためにはどうしたらよいのかを考え、備えておくことが必要です。 また、本来はなるべく避難所で生活してなくてもよいことが重要(在宅避難=家屋が無事であれば、ライフラインが断絶していても生活できる備えをする)なので、避難所運営そのものだけでなく、平時の備えについても考えられるような"まとめ"が求められます。

 

Point 災害時における学校の役割
  1. 児童生徒と教職員の安全確保
  2. 自宅等で生活できない近隣住民や帰宅困難者のための避難所(一時避難先)
  3. 学校に避難していない「自宅(在宅)避難(被災)者」も含めた、生活支援・生活再建の拠点

 

Point 運営ルールと生活ルール
  • 運営ルールとは、施設のどの場所を何のために使うかなど、予め決めておくことができて、なるべく変更しなくてもよいルールのことです。マニュアルなどで具体的に定めておき、地域住民や施設管理者(学校教職員等)が共有しておくことが重要です。
  • 生活ルールとは、避難してきた住民(避難者)や施設管理者が、その避難所の状況に合わせてつくる避難生活上必要なルールのことです。避難者数や被害状況により変化しますので、柔軟に作成または更新し、その都度関係者全体に周知徹底することが重要になります。

 

フィードバック(評価)

振り返りシートやアンケートなどで、研修や授業についてのフィードバックや評価を確認できると、次につなげることができます。振り返りで出てきた課題や気付き、対策などはマニュアルや今後の防災対策全般にも活用できる情報ですので、なるべく文面で残してもらえるようにします。

 

[参考動画:発災直後の避難所における要援護者トリアージ]

※映像につきましては 武蔵野地域防災活動ネットワークCOSMOS/日本赤十字看護大学 へお問い合わせください。

 

(宮﨑賢哉・社会福祉士)
災害救援ボランティア推進委員会主任/(一社)防災教育普及協会事務局長
[プロフィール]阪神・淡路大震災以降、各地の被災地で活動。2005年(公財)日本法制学会入社。災害救援ボランティア推進委員会で大学講座、学生活動支援を担当。2014より(一社)防災教育普及協会事務局長を兼務。社会福祉士として要配慮者の防災活動等にも取り組む。

第21回 災害救援ボランティア講座10年と大学・学生への普及

第21回 災害救援ボランティア講座10年と大学・学生への普及

宮﨑 賢哉(ミヤザキ ケンヤ) — 防災教育コンサルタント/社会福祉士—

災害救援ボランティア推進委員会主任/(社)防災教育普及協会事務局長

 

【サマリー】

筆者が東京地区(大学)での災害救援ボランティア講座に関わってから今年で10年となりました。この10年間、災害救援ボランティア講座を受講する学生(大学生~中高生や専門学校生も含む)が増え続けています。今や一年間で認定するセーフティリーダーの6割から7割は学生で、SL認定者総数の43%が学生(講座修了当時)という状況にまでなっています。学生SLがこれからの社会を担う一員となることで、日本の防災力向上につながることが期待されます。

 


 

▼この10年、災害ボランティア講座を受講する学生が増え続けている

筆者が担当している東京都内を中心とする大学での「災害救援ボランティア講座」ですが、年々開講数が増えています。平成16年度は年間10回だった講座全体の開講数が、平成26年度には19回とほぼ倍の開講数になりました。

これに伴って「講座修了生数」も年々増え続け・・・と言いたいところですが、そうでもありません。平成16年度の講座修了生総数は377名に対し、平成26年度は454名でした。10年前と比較して倍の回数、講座を開講しているにも関わらず、修了生数の伸びは20%程度に留まっているということであり、1回の講座の受講生数は減少している、ということを意味しています。

 

「東日本大震災が起きて、災害救援ボランティアについて知りたい人が増えたはずでは?」

と疑問に思われる方もいらっしゃるでしょう。それは統計値でも裏付けられています。平成24年度、平成25年度はいずれも500名を越える修了生数となっていますが、平成26年度では500名に至りませんでした。

東日本大震災など、大きな災害が起きてからある程度の期間が経つと、災害救援活動や防災への社会的な関心は”相対的に”低下していく傾向にあります。そのことが、弊会の講座受講生数にも影響していると考えられます。

 

ただ、減少しているだけでなく大きく上昇しているポイントもあります。そのポイントは、今後数十年の防災対策や災害ボランティア活動にも良い影響をもたらすポイントです。何かというと【修了生数に占める学生(大学生、中高生・専門学校生)の割合】です。

具体的なデータを示すと、平成16年度では33%しかなかった学生の割合が、平成22年度には71%になり、平成26年度においても64%まで上昇しています。

災害救援ボランティアや防災に関する講座は様々なものが開講されていますが、これほど顕著に、かつ継続的に若者が参加し続けているのが、弊会講座の特徴でもあります。

 

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表1 講座修了生数に占める学生の割合(黄色マーク)

 

▼「大学で開講する」ことではなく「大学が開講する」ことに意味がある

こうした特徴を生み出したのは「大学が主催して講座を開講する仕組み」を弊会が持っていることにあります。専門的な知識や技能を有する外部団体が、大学が主催する災害救援ボランティア講座に協力し、大学は、講座を受講した学生や教職員がともに、平時の防災活動や災害時の協力体制構築をしていく仕組みです。

 

大学主催の講座を数多く実施している東京地区に関するデータを示します。

平成16年度の修了生数は、186名中91名が学生(5回開講)でした。

平成26年度の修了生数は、297名中227名が学生(12回開講)でした。

数値を比較すると修了生数が62.6%増、学生比率は27.5%増、開講数は7回増えています(神奈川地区、千葉地区は修了生総数、学生比率いずれも減少)。

 

累計値ですが、学生の講座修了生数が多い大学ベスト5は次のとおりです。

 

1位 明治大学 451名(参考リンク:明治大学駿河台ボランティアセンター
2位 専修大学 360名(参考リンク:専修大学講座実施記録
3位 中央大学 351名(参考リンク:中央大学講座実施報告
4位 法政大学 295名(参考リンク:法政大学ボランティアセンター
5位 富山大学 245名(参考リンク:富山大学災害救援ボランティア論

 

いずれの大学も大学やボランティアセンター等が中心となって、災害救援ボランティア講座を開講しています(学生、教職員が対象で一般の方は受講できません)。こうしたデータからも「大学が災害救援ボランティア講座を主催」していく仕組みが、多くの学生の参加につながっていることが分かります。受講する学生さんや教職員の方にとっても「大学が主催している」と思えることは、安心感にもつながります。

 

一般的に外部団体による講座は、修了後は該当団体での活動や参加を前提としたものが多いのが特徴ですが、弊会の大学における講座は前述のように「大学による、大学・学生・教職員のための」講座を目指しています。それは結果的に大学がある地域の住民や、帰宅困難者支援のためでもあります。

 

明治大学災害救援班専修大学SKV法政大学チームオレンジなど、各大学で講座を修了した学生が参加する学内活動も積極的に行われていますので、関心のある学生さんや教職員の方は、各リンクからぜひチェックしてみてください。

 

▼学生が災害ボランティアや防災を知ることは、日本の防災力向上につながる

災害はいつ起きてもおかしくない状況であることに変わりはありませんが、今後20年、30年に渡って社会を支えていくことになる学生・若者が、在学中にこうした講座を受けていただくことは、将来的な日本の、地域の防災力向上につながります。

 

大学主催による災害救援ボランティア講座の開催は、筆者のライフワークでもありますので、その意味でも、この10年間の活動のなかでこうしたデータを出せたことはうれしく思います。できれば、修了生の総数も増やしていきたいところですが、こればかりは少しずつ進めていくより他にありません。

人数も大事ですが、1回1回の講座、ひとりひとりの受講生、そして担当者の方を大切にしながら進めていくことが重要だと考えています。首都圏内の大学を中心に、下記のようなご提案もさせていただいております。

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図1 大学主催による「災害救援ボランティア養成講座」ご提案

 

今後も大学での災害ボランティア講座は新規開講が予定されており、継続的な実施が10年を超える大学も増えてきました。各大学の教職員の方、学生の方のニーズに合わせて開講することが可能ですので、もし関心のある方はぜひお気軽にご相談ください。

 


 

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